第肆夜『福太郎の不思議な日常』

ー雑木林ー

福太郎「雨次郎くーん」

由乃「雨次郎くーん」

福太郎「おかしいな……確かにこっちに飛んでったはずやのに……」

由乃「雨次郎くーん」

福太郎「……足元、気ぃつけてや」

由乃「うん…」

福太郎「困ったなぁ……誰かに見られるんもやけど、こんな雨にあたっとったらいくら妖怪やいうても風邪ひくんとちゃうかな。こうなったらふた手に分かれて捜した方が……」

由乃「あ!!いた!」

福太郎「え!?」

由乃「あそこ……」

由乃が指さした先、ふらふらとした足取りであるく雨次郎が見えた。ふたりは慌てて走り出す。

雨次郎「……」

福太郎「雨次郎くん!よかった見つかった。すぶ濡れやん。大丈夫?寒かったやろ」

雨次郎「……」

福太郎「風邪ひくまえに早よう帰ろ……」

雨次郎「触るな!!」

福太郎が手を伸ばした瞬間に雨次郎は翼で払うように広げた。直接ぶつかったわけではないが羽から吹きあげた突風に吹き飛ばされ、その場で尻餅をついた。

福太郎「わっ……い゛っ!」

由乃「福太郎さん!大丈夫……!?」

福太郎「ん、平気や」

雨次郎「少し撫でただけでこのザマ。なんと弱い生き物!人間風情が出しゃばるな!!弱く汚い生き物に心配されるなど屈辱の極み……俺に慣れ慣れしくするな!!」

悲鳴にも思える悲痛な声で叫ぶと雨次郎は大きく翼を広げて空へと舞い上がっていく。

由乃「また行っちゃった……」

福太郎「あ、あらら嫌われちゃったかあー……ともあれ早く見つけんと…痛っだだっ?!」

由乃「もしかして足くじいたんですか?!」

福太郎「んっ、いやでも大丈夫……い゛っはは、追いかけないかんのに…」

痛みを堪えて立ち上がろうとする福太郎を横目に由乃は携帯を取り出してどこかに連絡をいれはじめた。

由乃「もしもし、大車です。はい……突然スミマセン。すみません…雨次郎くんがいなくなってしまって……ええ、はい……。福太郎さんが怪我をしてしまって…これから病院に連れていきます。」

福太郎「ゆ……由乃さん……?」

由乃「福太郎さん病院に行こう」

福太郎「えっ!?雨次郎君は……」

由乃「その足じゃ無理ですよ。雨次郎君は雲太郎さんにお願いしたから大丈夫です。」

福太郎「……」

由乃「私がおんぶして病院まで連れていきます。どうぞ」

背中を向けて身を屈める由乃。

福太郎「いやいやそんな女の子におんぶさせるなんて、俺重たいしそんな迷惑はとても」

由乃「お姫様だっことおんぶどっちがいい?」

有無を言わせない眼力に福太郎は反論できるわけもなく、後者を選んだ。

福太郎「……おんぶで…」

由乃「はい」


~移動中~


ー池袋界隈ー

福太郎「ホンマにすんません」

由乃「いえ、軽いもんです。私は半分妖怪だしね」

福太郎「……由乃ちゃん。俺がさっき家族と話した方がええっていったんはな、君が最初に家族に相談したんなら、きっと君が欲しい言葉は家族がもっとると思ったからなんやで」

由乃「……」
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