第肆夜『福太郎の不思議な日常』

ー大車家ー

大車由乃は朧車(おぼろぐるま)という妖怪と人間のハーフだ。母親が妖怪、父親が人間。歪業関係の仕事をしていればそういうひとは珍しくはない……はずなのだが。

『誇りも持てない半端者が私に話しかけるな!』

由乃「……(おかしいな…いつもなら気にしないのに)」

由乃母「あら、由乃どうしたの?浮かない顔してるわね」

由乃「今日、今日私がハーフだってことを少し言われたの穢らわしいって半端者だって」

由乃父「バカだなそんなの気にしなければいいんだ。気にする方がバカだ」

由乃母「あなた!!」

由乃「だってそうじゃないか」

由乃母「だからってそんな言い方…」

由乃「……」

由乃母「由乃…」

由乃「お休みなさい」

由乃母「由乃、気にしてはダメよ……」





ー百鬼襖の部屋:前ー

翌日天気は生憎の雨模様。由乃はもやもやした気持ちのまま夢見長屋までやって来た。

由乃「(おはようも行ってきますも言えなかった…また雨次郎君にいろいろ言われるのかなぁ)」

福太郎「ん?おはようございます」

由乃「あ、はい!!(わあああ、ビックリした)」

福太郎「ん、せや。雨次郎君やっと人の姿に化けてくれたよ」

部屋の奥では不機嫌そうにウロウロしている人間姿の雨次郎が見えた。

雨次郎「ふんっ」

福太郎「雨降ってきたみたいやし、とりあえずあがって。やー凄かったんよ人間に化けてっていうたら暴れる暴れる」

由乃「……」

福太郎「由乃ちゃん、平気?少し浮かへん顔しとるよ。」

由乃「……」

福太郎「んっ、人間に抵抗があってまだこの世界が分からんにせよ、酷い事を言われたことには変わらへんからね。よー考えたら気にするなとは言えんよなって」

『穢らわしい混ざり者の臭いだ』

由乃「気にしてるというか……気にしてますけど家族にそのことを相談したら意外な答えが返ってきて…余計もやもやしてるというか……」

福太郎「んっ、そっか…でもせやったらもう一度ご両親と話してみ。一度で諦めるんやなくてさ」

由乃「……」

福太郎「……」

雨次郎「散歩に行ってくる」

ふたりの脇を歩いて行く雨次郎だが、その背中には大きな翼が現れていた。

福太郎「ちょっと待って翼出したままどこいくん!?」

雨次郎「散歩っていってるだろう…」

福太郎「飛んでいくつもりなん!?」

雨次郎「そうだ」

福太郎「人に見られたらどうするん!?」

雨次郎「関係ない」

福太郎「いやいや、こんな雨ん日に…風邪ひくて…」

雨次郎「うるさい!人間が俺に指図するな!」

ぼうっと突風が吹いたと思うと高速で飛来して雨空の中に消えていく。

福太郎「え……えええうわあぁ…ホンマに行ってもうたよ!誰かに見られたら大事や…俺ちょっと追いかけてくるわ。由乃ちゃん」

由乃「は、はい!」

福太郎「由乃ちゃんはここで待っといて」

由乃「わ、私も行く!仕事だもの!」

福太郎「……無理だけ!せんといてや!」

福太郎は由乃に傘を預けた。

由乃「うん!」

福太郎「この雨やからすぐ目撃されたりせんと思うけど早めに見つけよ」

由乃「うん……!」
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