第肆夜『福太郎の不思議な日常』

ー百目鬼襖の部屋ー

福太郎「どうぞ」

お茶を皆の前に並べていく。雲太郎さんと佳世さんが並んで座り、その対面に雨次郎君が座っている。

雲太郎「ありがとうございます」

佳世「ありがとうございます」

お茶をひと口啜って雲次郎が口を開いた。

雲太郎「僕が人間界に来て数年が経ち生活がやっと安定してきたから雨次郎を呼ぶことにした……は、いいが実はまだ準備が整ってなくて……」

雨次郎「むっ」

福太郎「んっ、なるほど」

雲太郎「準備ができるまでもう少しだけ御堂さんのお世話になりなさい。こっちの話しを聞くとか、あさってには迎えに来るから。お前は人間が苦手だからその方がきっと役に立つぞ」

兄の言葉には逆らえないらしく雨次郎は腕を組んで唸りながらしぶしぶ頭を縦に振った。

雨次郎「ぐぬぬ」

福太郎「わかりました。」

雲太郎「それともうひとつ……こちらは佳世。僕の婚約者だ」

佳世「はじめまして雨次郎君」

雨次郎「……!!」

雲太郎「僕や妖怪のことを理解してくれている人だからお前も接しやすいと思う。」

雨次郎「……」

雲太郎「とても優しくて気立てのいい人なんだ」

雨次郎「…………」

雲太郎「だから是非仲良くしていって欲しい」

雨次郎「兄上!!」

ひときは大きな声を出して雨次郎は兄の言葉を遮った。鬼気迫る迫力だった。全員が押し黙る中、雲太郎さんだけはしっかりと雨次郎の目を見つめている。

雲太郎「……」

雨次郎「兄上……どういうことだ…冗談だろう!よく見てくれ兄上。その隣にいるのは人間だ!俗っぽくて自分の事しか考えられない人間何かと婚約だなんて…この女だって都合の良い事をいって言い寄ったに決まっている!」

佳世「!?」

雨次郎「兄上をよくも誑かしたな…この下等種族め!!」

雲太郎「……」

雨次郎「ひっ」

雨次郎は小さく悲鳴をあげた。雲太郎の背中からは雨次郎よりも大きくて漆黒の羽翼が現れて室内にも関わらず暗雲と稲光が漂いだしていた。

雲太郎「私が選んだ女性(ひと)に失礼なことを言うんじゃないよ。」

雨次郎「……っ」

鬼気迫る迫力からいっぺん借りてきた猫のように大人しくなる雨次郎。

雲太郎「ここで人間と上手くやっていけないならまた向こうでひとりで生きてみらう。天狗としての誇りも分かるがここは人間の世……天狗だからって人間を傷つけていいものじゃない」

「「「……」」」

翼を畳んで困ったように笑って雲太郎は言った。

雲太郎「すみませんお見苦しいところをこの通りきかない弟ですがよろしくお願いします。僕らは準備に戻ります。」

佳世「ではまた明後日によろしくお願いしますね。」

福太郎「はい」

福太郎はふたりを見送りに一度外に出で、残ったのは雨次郎と由乃だった。部屋の隅で落ち込む雨次郎に由乃は声をかけた。

由乃「大丈夫だよ。少しずつ仲良くなっていけばいいよ。元気出して」

雨次郎「そういえばお前……人間かと思ったら少し妖怪の臭いもするな。」

由乃「っ…」

穢らわしい混ざり者の臭いだ

福太郎「ただ……(んっ?)」

雨次郎「人間に触れられるだけでも腹立たしいのに…妖怪でも人間でもないヤツが偉そうに。誇りも持てない半端者が私に話しかけるな!」

福太郎「おい、雨次郎君!」

由乃「福太郎君!荷物のことで聞きたいことがあって……ヒソ(私は平気だから)」

福太郎「由乃ちゃんあの……気にせん方がええですよ」

由乃「うん…」
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