第肆夜『福太郎の不思議な日常』

ー滝田農園ー

滝田「やぁ、どうもどうも」

福太郎「昨日の今日ですいません」

滝田「いいえ、構わないですよ。面白いところもないですがどうぞゆっくり見学していってください。」

幽香「そうさせていただきますわ」

クロ「……」

幽香「なぁに?」

クロ「何もいってないだろ!」

滝田「どうかしましたかな?」

福太郎「いえ、気にせんといてください。今日は何されてはったんですか?」

滝田「あぁ、トマトの育苗だよ」

福太郎「トマト?滝田さんのところは花をつくっとるんでは?」

滝田「ええ、花の育苗もしていますよ。ですが、それだけだとやはりね。ある程度はマルチにやっていかないと」

福太郎「んー、なるほど」

滝田「よかったら少しやってみますか?」

福太郎「へ?」

幽香「えぇ、そうさせてもらうわ」

クロ「全面的に乗り気か」

滝田「ははっ、ではハウスの方にどうぞ」



ー滝田農園:ビニールハウス内ー

クロ「あったかいな」

滝田「ビニールハウスの中はあったかいですよ。その分、温度調整には気にかけていますけどね」

福太郎「んー、せやからブルーシートで家作る浮浪者が多いやね」

クロ「その例えはダメだろ」

滝田「さて、トマトは定植予定日の2カ月前に種をまきます。定植時期は、一般地では遅霜の心配がなくなる5月以降になるので、タネまきは普通3月に入ってから行いますがハウス栽培をされる方々のためにウチでは早めに育苗していくんです。それで、これがセルポッドです。」

クロ「せるぽっど?」

滝田「この黒いプラのプレートのことです。これに土とタネをいれて発芽させるんですけど。まずはこちらの土をいれていってください」

幽香「やりなさい」

クロ「私がかよ?!」

幽香「私はもう終わったわ」

クロ「はえぇっ?!」

滝田「おっ、ホントに早い」

福太郎「えっ、土も操ることできましたっけ?」

幽香「普通にやったわよ。そもそもそんな能力は無いし」

滝田「それでは次はこのひとセル、ひとセルにタネを一粒づついれていってください。」

クロ「ぐぁ……細かい」

幽香「ちょっと、今ふた粒落ちたわよ」

クロ「ぐぬぬっ」

滝田「ピンセットをどうぞ」

福太郎「これ手作業ですか?」

滝田「普通は機械でします」

クロ「うぉい!」

滝田「ですけど、なかには道具や機械が使えないサイズのタネもあるのでこうして手作業のときもありますから」

福太郎「なるほど」

滝田「撒き終わったらうえから土を軽くかぶせます。そして、水をかけますが。このとき一気にかけ過ぎるとタネが出てきてしまったり気泡で穴があいたりするので少しずつ、少しずつ濡らしていくんです。」

幽香「こんな感じかしら?」

滝田「お上手ですよ」

福太郎「さすがやね。」

滝田「あとは温度を保つために上からシートをかぶせて……はい、これで四日後には芽が出ます」

福太郎「そんなはように? 」

滝田「はい。ですけど此処から水の量と適度な生育温度を維持しないと芽が出る前に腐ってしまったり、弱い苗になったりするので大変なのはここからなんですよ」
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