第零夜『変わり始めた僕の日常』

食事が終わって、食器を水につけて、歯ブラシを手に取った。足もとでミツバが顔を洗っている。口をゆすいで、洗い物に取り掛かる。
ミツバは今度は尻尾のお手入れをしはじめた。しなやかな伸びを見ながらいった。

「ミツバは今日どーするん?」

『あ、私は天気がいいんで日向ぼっこなど』

有意義かつ彼らしい過ごし方です。
ミツバは普段遠出はしません。

よくて夢見長屋の周りだけです。ですが、月に一度だけはどこかの友達に会いにいってるらしいです。彼女なのかと興味本位で聞いたときは『あの方は私たちのアイドルですっ!』っと、興奮気味に答えてくれた。どうやら、人間と同じで猫にもアイドルという物が存在しているらしいです。
くわしく聞くと、純白の毛並みと青い目のとても美しい猫だとか。機会があれば俺も会ってみたいものです。

「じゃあ、俺、買い物いってくるわ。」

『あれ?福さんお仕事は?』

「今日は日曜日」

パジャマを脱いで、適当な服を引っ張り出して着替えてる。ユニクロの無地の黒いシャツに、同じくユニクロのジーパンにユニクロの靴下とオールユニクロ製品。安さと安定を追求した男の服装なんてこんなもんです。

『夕食どうするんですか?』

「んーー……カレーかな…?」

『じゃあ、チクワカレーにしてください。』

「う……うん。」

変な物が好きなのは猫特有のアレなのか、ミツバがアレなのかはわかりません。
たぶん、ミツバはチクワが大好きなのだと思います。

「それじゃあ、出かけてくるな。」

『いってらっしゃいです。』

不用心かもしれないけど、鍵はいつも閉めません。別にとられるものもないので。
今時木造作りという階段を下りて、夢見長屋を出ていきます。このとき、側に見えるのが立派な桜の木が生えた寺と無縁仏墓地です。

ひとが少ない理由のひとつかもしれないです。あと近くにずっと取り壊されない廃校があります。なんでも、その廃校を中心に北に火葬場、東に病院、西に寺と無縁墓地(ここの事です)、南に自殺の名所があるらしい。
寺の人に話しを聞いてみると下には霊の通り道があるとかないとか。

俺のなかにある運命という名のギアは、少しずつ変な方向にまわり始めているのかも知れません。

俺は幽霊とか妖怪とかを見たことないので、霊感とかは持ち合わせていなすはずだった。ただ、ひとつだけ普通の人と違うのは生き物と会話が出来ること。猫だけではなく、鳥、犬、あるいは虫なんかとも生きものであれば会話ができます。ただ、なんでもかんでも聞こえてくるという訳でなく、『おれが話しかけて』『向こうも人間の言葉を理解して』いて、『話す気がある生きもの』としか会話できません。

なので生きているといっても植物や赤ん坊と意思の疎通ができるとかじゃないです。
それにその『条件』が本当の正解か、正確ではない。いつも気がついたら話していたので確かめるすべという物もないし、いつからこの能力(?)を持っていたのかも実は覚えて無かったりする。

それでも今まで生活してきて邪魔と思ったことは無い。屋外で話していてへんな目で見られたことはあったけど。

ぼーっと歩いてるとすぐ先にちいさな女の子の背中が見えた。近所に居る子だ。独特というかあの子はなぜかいつも身の丈に合ってない白衣を着ているのですぐにわかる。
通りすぎる際に声をかけた。

「おはよう。散歩かな?」

白衣の子はニカっと歯を見せて笑う。

「おはようございますなのだ。もーちょっとしたらあんちんが来るから待ち合わせするのだ!」

どうやら、誰かと遊ぶらしい。おにーいちゃん、バイバイっといって白衣の裾をこすらない様に持ち上げて走っていく。見る間に背中はどんどんちいさくなった。
あの子はよく廃校のほうへ行っているけど怖くは無いのだろうか。


その廃校というのも妙な噂があった。
いわゆる「呪われた校舎」というやつだ。まえに一度夜に廃校の近くを通りかかったとき教室の電気がついていてぎょっとした事があった。あのときは行ってしまったけど次はなかにはいってみようかと思っていたりする。
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