第参夜『福太郎の不思議な日常』

ー夢見長屋近くの畑ー

幽香「ようやく着いたわね」

クロ「はぁはぁ…」

幽香「まったく、なに肩で息をしてるのよ」

クロ「このリヤカーいっぱいのヒナギクの苗をひとりで運んでしかも、そのリヤカーになんでお前は座ってんだよ!」

幽香「目的地は同じなんだから問題ないでしょ」

クロ「私がひとり疲れるだろ!!」

幽香「さてと、メリー。出てきていいわよ」

幽香は提げていた巾着の口を緩めると小さな人形が顔を出す。

メリー「よいしょっ!」

幽香「狭いなかよく我慢できたわね」

メリー「うん、平気」

幽香「それに比べて犬は文句が多いわね。」

クロ「ぶん殴ってやろうか……」

幽香「あら、怖いわぁ」

そういいながら幽香は開いていた日傘を閉じて軽くスイングする。ヒュンヒュンっと風を切る音。

クロ「怖いのはお前だよ」

泥田坊「おんやぁ?」

メリー「あ、どろたぼー。」

泥田坊「まんずまんず、賑やかと思ったら幽香様でねーですかい。それに、メリーちゃんにクロさんも」

クロ「幽香メインかよ……。」

幽香「久しぶりね。土塊(つちくれ)。ちゃんと畑は手入れしてあるんでしょう?」

泥田坊「もつろんだす。いつでもなんでも植えられるように毎日毎日耕しておきますたよ」

幽香「そう。言い心掛けだけだわ……だけど、あれはなに?」

幽香の指差す先の畑には青々とした葉が茂っている。

泥田坊「あれは蕪(かぶ)だぁ。悠さんと福太郎様の……」

幽香「じゃまねぇ。ひっこ抜きましょうか」

クロ「容赦ねーな?!」

泥田坊「ゆ、幽香様、そら勘弁してもらえねーべか。おらが怒られちまうだ」

幽香「いいじゃない。私は怒られないんなら」

クロ「ドサディスティック!」

幽香「さっきからキャンキャンうるさい雌犬ね。発情期?マーキングなんかしないでよ?」

クロ「お前は……」

メリー「ゆうかりんランドにお野菜があってもいいと思うの。」

幽香「そうねぇ。しかたないから今回は容赦しておいてあげようかしら」

クロ「おい、なんか甘くねーか?子供にはよわいってか?」

ガンッ!クロの足先すれすれに傘の先が突き立っていた。

幽香「あら、外れた。」

クロ「外したんじゃないのかよ!?」

幽香「おしゃべりしてないでとっとと苗を畑に植えていきなさい。土塊もしっかり動くのよ」

泥田坊「へいっ!」

クロ「ちくしょー……」

メリー「がんばれー!」

幽香「ふふっ。」




ー福太郎の部屋ー

福太郎「ほんで、案の定部屋ン中はヒナギクまみれっと……」

幽香「前にもいったでしょ?花のある生活はいいって」

福太郎「そうでしたね」

クロ「疲れた……。」

メリー「クロ、ご苦労様」

福太郎「幽香さん、夕飯は食べてきますよね?」

幽香「ええ、ついでにもう二、三日厄介になるわ」

クロ「なにっ?!」
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