第壱夜『福太郎の不思議な日常』

ー池袋界隈ー

福太郎「悠、しっとる?」

悠「知らない。」

福太郎「せやったら、話すわ。あそこのビルあるやろ。」

悠「あー?あぁ……。」

福太郎「あのビル曰く憑きらしいんよ」

悠「曰く?」

福太郎「バイト先で聞いた話なんやけどな。」



~~

【屋上の幽霊】

街中を歩いていた。ふとビルの屋上に目をやると男が飛び降りようとしている。大変だ!止めないと!!あ、あ、飛び降りた!

「どうした、兄ちゃん?」

慌てる私に道路工事をしていたオヤジが声をかけてきた。ビルの上の男のことを話すと、

「ああ、兄ちゃんも見たのかい。気にしないことだ。あの男はあそこで死んで以来、毎日ああやって飛び降り自殺を繰り返しているのさ。ここの名物みたいなもんだ。」

私は落ちた場所に目をやった。誰もいない。また明日、彼は飛び降りるのだろうか。


~~


悠「死に切れず、自分の最後の時を繰り返す幽霊話か……。」

福太郎「そうなんよ。一応、話しも聞いたしこうやって文字にもしたし、現場を見とことおもてな」

悠「なんか随分と様になってきたな」

福太郎「せやろか。まだ、実感わかんのやけど」

悠「それゃそうだろうな。都市伝説調査なんてのは民間業者に委託できないし、警察だって無理。そもそも「見える」人間しか「見えない上」場合によったら対処のしようがない……。なかなか、難易度はハードな話しだよな。」

福太郎「せやね……。休みのたびに悠君に着きそうて貰うンも悪いしなぁ」

悠「それはいいよ。おれも好きでやってるだけだし。っか、暇なだけだし。」

福太郎「さよか」

悠「っか、福ちゃんは異常ないのか?」

福太郎「なにが?」

悠「すっきーと暮らし出して体調が悪くなったりとか」

福太郎「そういうんは全然。そもそも、すっきーは俺より前から居たわけやし」

悠「あー……よくよく考えたらアレか初めから同棲してたワケか」

福太郎「同棲て……お、ここや」

悠「このビルか……。」

福太郎「とりあえず、写真とここの絵描こうと……ん?」

悠「写真と絵とか真面目だな。」

福太郎「なんやアレ……まさか!!」

血まみれの男『……』

ひゅぅぅ…

福太郎「悠!上!!あぶないっ!!」

悠「上?」

血まみれの男『……』
ひゅうぅぅぅぅ!!

悠「昇龍の極み!!」

血まみれの男『ぶきゅゅあぁぁぁぁぁぁぁ……?!』

龍が飛翔するが如く。
悠は真垂直に蹴りあげた足が見事に落ちて来た男を穿ち、はるか上空へと舞い上がり星になった。

悠「……どうなった?」

福太郎「えーと、落ちて行くばっかりの生活もつまらんかったやろうし……。よかったん、ちゃうかな」

悠「あー、なるほど。けど、よかった。見えないから真上狙ってみたら当たって。」

福太郎「相変わらず見えんのは見えんままなんやな……。」

その日は夕方までずっとビルを描いていましたが、あの男が再び落ちて来ることはありませんでした。
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