第参夜『福太郎の不思議な日常』

ー山のふもとー

福太郎「んっ……?」

万年雪の積もるという山のふもとを一人で散策していると、着物姿の美しい女性が水墨画を描いていた。

美しい白髪の女性が描き出す白と黒のコントラスト。何とも雅なことだ。邪魔にならないよう後ろから見物させてもらう。

着物女性「……気色悪い視線でじろじろ覗き見るな下郎」

福太郎「ん…っ?」

あまりの冷たい言いように愕然とする。

確かに一声かけるべきだったかもしれないが、こういう状況下描いているところをちょっとくらい見られても、それは普通のことではないだろうか。何もそこまでいわなくても。しかし、見知らぬ人間に警戒しているだけかもしれない。何とか心静かに努める。

着物女性「福太郎、お前のことは色んな奴から聞いて知っている。不幸がうつるから私に近寄らないでもらおうか。」

福太郎「あら……」

俺のことを知っていた。知っていながらこの言いよう。眩暈がする。色んな奴て……たれだろうか、クロ、メリーちゃん?はたまたメフィストさん、りんねせんせ、恋ちゃん……この人に、よほどの悪口でも吹きこんだのか。なんてことだ。いったいだれが俺をそんな風に思っていたのか。

着物女性「妖怪でも分け隔てなく接する厳しいが、心優しい男だとか。地獄に落ちるがいいこの偽善者め。」

福太郎「おおぉぅ……」

褒めていた。だというのにこの罵詈雑言。ありえない。

言葉の端々に下衆やら豚虫やらの単語が混じるのを我慢して聞くと、どうやらこの女性は「雪女」であるらしい。雪山に現れるというメジャーな妖怪。その冷たさに納得する。

雪女「糞涼しくなってきたので娘を遊ばせに来てる」

福太郎「子持ちなんや…」

俺の中の「母=優しい」イメージが崩れ落ちていく。

雪女「その辺りで油売っていると思うので探して連れてきなさい。そうしたら見る許可を特別検討しないでもないわ。」

そこまでして見たくはないが。口に出す勇気はない。



福太郎「おーい……んーしもた、名前でも聞いとけばよかったなぁ……あっ!」

少し探すと地面に倒れ伏す蓑虫……じゃなくて蓑を被ってる少女発見。おそらくこれが娘だろう。揺すってみたが反応がない。仕方ないのでおぶって連れてゆく。

雪女「ちっ」

娘はどうやらはしゃぎ過ぎて熱を出し、倒れてしまったようだ。よくあることだと言う。ただそれだけの内容のセリフにガッデムやシットやら放送禁止用語が十数個も含まれビビる。

福太郎「いやはや、倒れるまで遊ぶやなんて、元気な娘さんのようで何よりでスノー」

場を和ませるために洒落てみた。

雪女「はぁ?」

流石本職。その冷やかな眼差しは一流だ。

福太郎「すんません」

雪女「ふん、また会うこともあるでしょうファッキン。」

雪女は娘をおぶって帰るので、柄は持って帰れないのでくれてやると言い、去った。最後までデレはなかった。

いや、この絵が礼のつもりか。絵は荒々しく燃えるような画風であった。パンクな生き様にちょっと感銘を受けつつ帰宅する。今度は俺も水墨をやって見てもいいかもしれない。




ー福太郎の部屋ー

クロ「おかえり。」

メリー「おかえりなさーい。」

すっきー『絵を描く場所の下見どうだったすか?』

福太郎「ただいまビッチ」

このあと皆に一時間ほど説教をくらった。
17/100ページ
スキ