第弐夜『福太郎の不思議な日常』

ー百鬼襖の部屋ー

福太郎「ほんで?」

椿「はい、三味線を教えてほしいと言ったら喜んで教えてくれました。」

私は彼を師匠と呼ぶようになり、毎日一生懸命学びました。幸せでした、とても。

しかし、ある日高齢だった師匠は病で倒れてしまいました。彼は最期にこう言いました……

『椿、オレの跡を継いで三味線を弾いて生きる気はないか、音楽に人間も妖怪もないはずだ。…………残していく金で……そうだな、太るくらい好きなかつお節たくさん買っていいからさ』

椿「イラっ」

福太郎「どないしてん?顔怖いで」

椿「いえ、思いだしたら少々怒りが…あの時私は本当に心配でどうにかなりそうだったのに……」

由乃「?」

椿「コホン、失礼。それが私が聞いた最後の言葉でした。椿の花が落ちる頃に師匠は息を引き取りました。ひとりになった私は迷いました。一大事なのに師匠にふざけたことを言われ…仲良くなったと思っていた人間がよく分からなくなったのかもしれません。でもずっとひとりでいたら居ても経っても居られなくなって、時間がかかったのが悔やまれますがこの道は後悔していません」

福太郎「そうだったんや」

由乃「じゃあこれからもっと頑張らなきゃだね!」

椿「えへへさあ!私の話しは終わりです」

福太郎「んっ?」

椿「福太郎さんが歪業になった理由を話す番です。」

福太郎「んんっ?俺?」

椿「はい!わたしずっと聞いてみたかったんです!」

福太郎「んーー……あんま面白ないで?」

椿「大丈夫です!」

福太郎「メフィストさんに変化魔法掛けられて一生嫌いなものの姿で過ごすか、この仕事するかで脅されて、YESとしか答えられんかった。それがきっかけやね。」

椿「……」

福太郎「はい、ごちそうさん。さて、今夜は忙しいし……椿さんの引っ越し仕度手伝いよろしゅう大車さん」

由乃「あ、はい」

福太郎「片づけは俺がしとくけん二人は荷造りにいっといで」

由乃「ごちそうさまでした」

椿「ごちそうさま……でした……」


~荷造り中~

由乃「……ねえねえさっきから元気ないけどなんかあった?」

椿「えっと……実はなんだか腑に落ちないって言うか……チラ」

福太郎「ふんふん♪」
がちゃがちゃ…

椿「私、親切に面倒を見てくれる福太郎さんを尊敬しています。だからね歪業になった理由も尊敬できる理由なんだろうって……勝手に思ってた私も私ですけど……脅されたって……」

由乃「……私ね歪業のサポートにバイトはずっと続けてるんだけど、福太郎さんみたいな人に着いたのは初めてだったの。それで椿ちゃんと同じように理由を聞いたときはいい加減な人って確かに思ったよ」

椿「ですよね!!」

由乃「だけど福太郎さんがこの仕事でいい加減な態度をとったところを見たことないの一度も。のんべんだらりとしてるけどすごく真剣に仕事とあなた達に向かいあってる。歪業と関係ない妖怪が彼を襲おうとしたのに、今ではいっしょに暮してたりする。意思の疎通ができるんなら問題ないって言ってたわ。納得できないんならその気持ちを話してごらん。彼はちゃんと答えてくれると思うよ」

椿「由乃さん由乃さん」

由乃「なぁに?」

椿「福太郎さんのことよく見てるんですね!福太郎さんのこと好きなんですね!」

由乃「な゛っんと///ちっがっ///」

福太郎「ふたりとも荷造り終わった?」

由乃「キャアアアアアァ///」

福太郎「うぇい?!」

由乃「おおおお、お、終わったので帰ります!」

福太郎「んっ、顔赤いけど平気なん?」

由乃「大丈夫です!失礼します!!」
ばたたたっ!

椿「由乃さんありがとう!」

福太郎「ちょ……大車さん?!」

椿「……応えてくれる、か」
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