第弐夜『福太郎の不思議な日常』
ー百鬼襖の部屋ー
以津真天【……】
ずううぅぅぅんん…。
転び続け、足をくじき続けていたのさすがに見かねて、このままでは歩くどころか立てなくなってしまうとドクターストップをかけてようやくやめてくれた。室内とはいえ何十回も躓いて足は擦り傷や火傷、酷いところは痣になって腫れてしまっている。包帯とガーゼとシップでとりあえずの処置をしていった。
福太郎「やっぱり休息なしは無理やて。足かてこんなにボロボロやで、慣れてないのに急ぐから……テーピングも包帯ももうないしりんねさんに持ってきてもらわんと…」
以津真天【……】
福太郎「んー、聞いてええかな。なんで人間の方法やないとアカンの?」
以津真天【……(駄目、ではないですが……福太郎殿)】
福太郎「ん?」
以津真天【……(以津真天がどうやって生まれるかご存知ですか?)】
福太郎「んー……だいたいは」
以津真天【……(私がここまでしたいと思う思い出を聞いていただけますか)】
福太郎「もちろん」
少し、昔のお話しです。
戦場というのは残酷です時が経てば、死体も錆びついた武器も何もかもひとが見向きもしない荒れ地になるのです。供養されない人間が眠ったまま……。
気がつけばそこに私はいました。恐ろしい鳥の姿で、いつまで、いつまで…っと鳴いていたのです。
『いつまで…いつまで、いつまで…』
『ぎゃああああぁぁぁあああぁっ!!』
人間が憎くてそうしたのではないのです。これは鳴き声です。私はただ荒れ地を通る人々の耳元で囁くだけ。何年も何年も、驚く人間が面白くて同じことをしました。
ある日、ひとりの男が通りかかりました。私はそっと近寄りました。今日も同じことをするために――
『いつまで……いつまで、いつまで…』
今日も同じはずでした…
『お前以津真天だな?』
『!!』
『お前がここに居るということは供養されてない人間がここにいるんだな?』
真っ直ぐな目をした人間だった。
『ちょっと待ってな。俺にはこんなことしか出来ないけど……そいっ!!』
持っていた酒瓶の中身を惜しげもなく振り撒いて私の方へ向くと
『菓子はこれしかねぇから喧嘩しないであの世で食えよ?』
ひしゃげた最中を私に差し出す。
『ちょっと形は変わっちまってるけど……味はいいからよ。あっ、でも賞味期限が近いな。早めに食えよ。』
なんて乱暴なお供え物だろう供養のつもりだろうか。それに私はすでに妖怪であって幽霊でないから、供養なんてしても成仏できるわけがないのに……でも、確かに胸の奥がじんわり暖かくなったのです。
それから度々、彼は私を訪ねてきました。
一緒にお菓子を食べたり。私に掴まっていっしょに空を飛んだり。
何年も何年も目的も分からず共にいたのです。彼が訪れることが当たり前になった私は時の流れを忘れていました。命の短さの違いも……。
以津真天【……(彼が私を訪ねなくなったので様子を見に行くと彼はすでに……それから気がつくと彼の墓へ行っていました。あの時、胸の奥が温かくなったのはきっとあの人がわたしを供養しようとしてくれたから…………もう居ないあの人にも私と同じ気持ちになってほしい。人間と同じ方法でお墓参りしたら、あのひとも温かくなってくれる気がして…こんな気持ち…私は妖怪なのにね)】
福太郎「んっ……なら、頑張って人間の方法で友達のお墓参りいこな」
以津真天【……(ま、待ってください!彼は人間で私は妖怪で友達だなんて…)】
福太郎「俺とミツバやって友達やで?人間と猫や。メリーちゃんとは人間と人形、すっきーは人間と都市伝説幽霊、クロはそれこそ人間と妖怪や。妖怪と人間が友達でもなんもへんやないよ?それに足をそんなボロボロにしても行きたいんやろ?キミはずっと友達としてきちんとお墓参りに行きたかったんやろ」
以津真天【……】
ずううぅぅぅんん…。
転び続け、足をくじき続けていたのさすがに見かねて、このままでは歩くどころか立てなくなってしまうとドクターストップをかけてようやくやめてくれた。室内とはいえ何十回も躓いて足は擦り傷や火傷、酷いところは痣になって腫れてしまっている。包帯とガーゼとシップでとりあえずの処置をしていった。
福太郎「やっぱり休息なしは無理やて。足かてこんなにボロボロやで、慣れてないのに急ぐから……テーピングも包帯ももうないしりんねさんに持ってきてもらわんと…」
以津真天【……】
福太郎「んー、聞いてええかな。なんで人間の方法やないとアカンの?」
以津真天【……(駄目、ではないですが……福太郎殿)】
福太郎「ん?」
以津真天【……(以津真天がどうやって生まれるかご存知ですか?)】
福太郎「んー……だいたいは」
以津真天【……(私がここまでしたいと思う思い出を聞いていただけますか)】
福太郎「もちろん」
少し、昔のお話しです。
戦場というのは残酷です時が経てば、死体も錆びついた武器も何もかもひとが見向きもしない荒れ地になるのです。供養されない人間が眠ったまま……。
気がつけばそこに私はいました。恐ろしい鳥の姿で、いつまで、いつまで…っと鳴いていたのです。
『いつまで…いつまで、いつまで…』
『ぎゃああああぁぁぁあああぁっ!!』
人間が憎くてそうしたのではないのです。これは鳴き声です。私はただ荒れ地を通る人々の耳元で囁くだけ。何年も何年も、驚く人間が面白くて同じことをしました。
ある日、ひとりの男が通りかかりました。私はそっと近寄りました。今日も同じことをするために――
『いつまで……いつまで、いつまで…』
今日も同じはずでした…
『お前以津真天だな?』
『!!』
『お前がここに居るということは供養されてない人間がここにいるんだな?』
真っ直ぐな目をした人間だった。
『ちょっと待ってな。俺にはこんなことしか出来ないけど……そいっ!!』
持っていた酒瓶の中身を惜しげもなく振り撒いて私の方へ向くと
『菓子はこれしかねぇから喧嘩しないであの世で食えよ?』
ひしゃげた最中を私に差し出す。
『ちょっと形は変わっちまってるけど……味はいいからよ。あっ、でも賞味期限が近いな。早めに食えよ。』
なんて乱暴なお供え物だろう供養のつもりだろうか。それに私はすでに妖怪であって幽霊でないから、供養なんてしても成仏できるわけがないのに……でも、確かに胸の奥がじんわり暖かくなったのです。
それから度々、彼は私を訪ねてきました。
一緒にお菓子を食べたり。私に掴まっていっしょに空を飛んだり。
何年も何年も目的も分からず共にいたのです。彼が訪れることが当たり前になった私は時の流れを忘れていました。命の短さの違いも……。
以津真天【……(彼が私を訪ねなくなったので様子を見に行くと彼はすでに……それから気がつくと彼の墓へ行っていました。あの時、胸の奥が温かくなったのはきっとあの人がわたしを供養しようとしてくれたから…………もう居ないあの人にも私と同じ気持ちになってほしい。人間と同じ方法でお墓参りしたら、あのひとも温かくなってくれる気がして…こんな気持ち…私は妖怪なのにね)】
福太郎「んっ……なら、頑張って人間の方法で友達のお墓参りいこな」
以津真天【……(ま、待ってください!彼は人間で私は妖怪で友達だなんて…)】
福太郎「俺とミツバやって友達やで?人間と猫や。メリーちゃんとは人間と人形、すっきーは人間と都市伝説幽霊、クロはそれこそ人間と妖怪や。妖怪と人間が友達でもなんもへんやないよ?それに足をそんなボロボロにしても行きたいんやろ?キミはずっと友達としてきちんとお墓参りに行きたかったんやろ」