第弐夜『福太郎の不思議な日常』

ー百鬼襖の部屋ー

りーん、りんりん、りん、りんりん

福太郎「おっ、襖が鳴りだした。来たみたいやな……いらっしゃいませ」

すすすっと百鬼襖をあけると極彩色の巨大な羽が溢れだしてきた。一枚一枚の大きさもさながらまだ頭も見えないということは相当大きな身体らしい。

鋭利な鉤爪の足を床にひっ立ててようやく頭が出てきた……っが、それ以上出てくる様子がない。

以津真天【……】

福太郎「……えっと、もしかして詰まってはる?」

以津真天【コクコク!】

福太郎「鬼君のときもせやったけど、この襖狭いんやな…」

四苦八苦すること数分後、以津真天はようやく全身を部屋に入れることが出来た。羽を折りたたんでなるべく身体を小さくし部屋の隅で固まってい。

福太郎「んーと、俺は御堂福太郎です。……あの、こわがらんでもええんよ?お茶菓子でもどう?」

以津真天【……】

見た目の怖さに反してビクビクと身体を揺らして、恐る恐るこっちに来ようとしたが鉤爪の足では移動しにくいのか畳を切り裂きながらずっこけた。

どしんッ!!!

りんね「何、今の音、どうしたの大丈夫?」

福太郎「あ……りんねさん……はは、ちょっとたすけて」

以津真天【……】

ずっこけた以津真天に潰されて動けなくなったところを何とか引き抜いて貰って散らばった羽を掃除することにした。


~掃除中~

りんね「凄い音がしたから何事かと思ったけど二人して羽だらけの部屋で潰れてるんだもんビックリしちゃった」

福太郎「お手数かけまして」

りんね「二人ともケガがなくてよかったわ。それじゃ今回の荷物置いていくね。二人とも頑張ってね!」

福太郎「ん、おおきにです。さて片付いた!やからそんなに落ち込まんの……」

以津真天【……】

さっきよりも隅の方で小さくなっている……。どうやらメンタルはかなりナイーブらしい。

福太郎「ほらほら気にせんでええから、とりあえずこっち来て自己紹介してくれるかな、あとお菓子もあるし」

以津真天【……(はじめまして私は喋れないので頭の中に語りかけています。私は以津真天。お世話になります。福太郎殿)】

福太郎「あれ、いつまでいつまでって言うんちゃうの?」

以津真天【……(あれは鳴き声です)】

福太郎「んー、なるほど!」

以津真天【……(あの、実は現代(こちら)に移住したくて福太郎殿を訪ねたわけではないのです。)】

福太郎「ほう、ほななんで?」

以津真天【……(私は数十年前からずっとある人間の墓参りをしています。気まぐれに飛んでいっては身を隠し、ただひたすら木の影からみているだけでした。そんなある日、人間の墓参りを初めて見ました。ああ、私も人間と同じ方法で墓参りがしたい。そう思ったのです。)】

福太郎「ふんふん」

以津真天【……(しかし私はなにも知りません。お願いします福太郎殿にしか頼れないのです)】

福太郎「ん、わかりました。お手伝いしますわ。」

以津真天【……(よいのですか)】

福太郎「んっ、移住の手伝いだけが仕事やないですから。ただ覚えることがたくさんあるで、まず手始めに人間の姿になってみよか……畳がズタズタやし」

以津真天【……(すみません!すみません!すみません!)】
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