第弐夜『福太郎の不思議な日常』

ー福太郎の部屋ー

鬼君がこっちに来て数日……。卵を割ること二十五回、卵に指が刺さし十八回、殻ごと潰した回数四回、顔もとで破裂三回。

鬼『……ちょっと……これ……これ……福太郎さんこんなんで大丈夫なんスか』

福太郎「まぁまぁ頑張ってある日突然できるようになるて」

クロ「にしても今日も派手に割ったな。」

鬼『丸のみしたろかと思うっス』

メリー「はい、ティッシュ」

鬼『どもっス』

福太郎「勉強の方はどう?」

クロ「問題ねーよ。普通にこいつ覚えは良いもん」

福太郎「賢いんやね」

鬼『いや、そんなことは……。』

りんね「おっじゃましまーす」

福太郎「んっ、りんねさん?」

りんね「あら、ご飯時だったのね」

福太郎「食べてきます?」

りんね「んー、嬉しいけどちょっとプリント作らないといけないからまた今度ご相伴させてね」

福太郎「ん、そですか。……ほな、なにしに?」

りんね「あ、そうそう。これ鬼君に頼まれてた物の資料ね」

ドサッ!
鬼『あ、どもっス』

福太郎「なにそれ?」

鬼『保育士免許の教科書っス。』

福太郎「ん?」

鬼『いや……いつまでも福太郎さんのお世話になれないし。力加減できるようになったらバイトでもして、ひとりで暮らそうかと』

福太郎「そっか。ん、困ったことがあったらすぐにいうてええからね」

鬼『ウス……あの、福太郎さんは何でこうも世話を焼いてくれるんスか?』

福太郎「んー、仕事やし?」

鬼『いや、そうっスけど』

クロ「今日は私も卵かけごはん食うかな」

メリー「ちゃんと割れるの?」

クロ「当たり前だっーの!」

鬼『あ、じゃあどうして福太郎さんは歪業として働いてるんスか?』

福太郎「いや、なりゆきやで。正式にこの仕事をしとるわけやないし。ってか、鬼君が初やし」

メリー「鬼さん、もう一個、卵置いとくね」

鬼『ウス。なんか意外っスね。めっちゃ慣れてる感じなのに』

コッコッ……カパッ!

福太郎「ん、でもやりがいは感じとるか……も……」

鬼『どうしたんスか?』

福太郎「卵、きれいに割れとるよ」

鬼『……!!!!!!』

福太郎「落ち着いて」

鬼『わ、割れたっス!!』

福太郎「うん、とりあえず落ちつこうな」






ー公園ー

鬼『えーと……』

福太郎「あ、ほらほら居ったよ。」

少年「あっ!」

福太郎「ほら、行った!」

トンっ…
鬼『………ウス……う、えとこの間は毬…じゃなくて、ぼーるを壊してすまなかった。あのぼーるじゃないけど次からはこれで遊んで欲しい』

鬼は星の模様が散らばったゴムボールを投げた。破裂することなく放物線を描いて飛んでいったボールは少年の手の中に落ちた。

少年「いいよ許してあげるっおにいちゃんありがとうー♪」

鬼『……できた…!』

福太郎「んっ、よかったよかった」

それから鬼君はひとり暮らしの準備を整え無事に人間の世界に旅立った。
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