第弐夜『福太郎の不思議な日常』

ー百鬼襖の部屋ー

鬼『……自分が人里に住んでいた時の話しっス』

福太郎「んっ。」

自分は人を襲うとかしなかったんで近くに住まわせてもらってたんスよ。でも、やっぱり鬼だから。村人からは近づいてもらえなかったっス。自分としては仲良くしたかったんスけどね。

でも、村の子供は違った。にこにこ笑って遊んでって言うんスよ。花の種類、おもちゃの遊び方、木登りのしかた……。

新しいこと楽しいことを覚えるたびに子供の笑顔って輝くんスよ。もっと近いトコでもっといろんなコト教えたいけど、自分は力の強い妖怪っス。距離を測り間違えばうっかりケガをさせてしまうかもしれない……。

そんな時、友人の鬼から人間界には保育士という仕事があるのを教えられたっス。とても憧れたっス。向こうには自分の好きなことが職業になってるのかって……。

鬼『もしかしたら俺でもきちんと勉強すれば……って思った。でも今日よくわかったっス。やっぱり自分みたいな奴は夢見ちゃいけないんだ。人間の世界に居ちゃいけないんだ。さっき握りつぶした毬みたいにいつかヒトを傷つけてしまうんだ……』

福太郎「……」

鬼『大人しく帰って…』

福太郎「角隠して」

鬼『はい?』

福太郎「ついてき」

鬼『ちょっ』





ー近くの公園ー

福太郎「ついたで」

鬼『か、帰りましょう』

子供A「キャッキャッ」

子供B「あははっ」

子供C「まてー」

鬼『なんで公園なんて連れてくるんスか、もしまた…』

福太郎「んー……何かあったら怖いんは分かるんよ。けど、努力もせんと諦めるん?」

鬼『……』

福太郎「あんな、アクセサリー屋のあの人は、君と同じ鬼の一種らしいんよ。んで、彼も力加減が出来んで苦しんだらしいんよ。やっぱり鬼は力強いんやね。」

鬼『……』

福太郎「繊細なものを作るどころか壊してしもて、一晩中泣いたこともあったそうや。っで、俺はその話聞いて質問したんよ。諦めんかったんって?そしたらなんて言うたと思う?「諦めるのは努力しても駄目だった後でいい」って言うたんよ。」

鬼『……』

福太郎「君が決めることやし強要はせんよ。でも、夢が勿体無いんちゃうかな」

鬼『でも向こうもきっと自分のこと怖がるだろうし……』

福太郎「それは心配ないと思うで?足元足元」

少女「おにーちゃんいっしょにあそぼ?」

鬼『!!』

少女「?」

鬼『俺…俺にもできるのかな……』

福太郎「さぁ、それこそ努力次第ちゃう?それとまずはボール壊しちゃった子に謝らんとね?」

鬼『許してもらえなかったらどうしよう…』

少女「おにーちゃん、なにかこわしちゃったの?」

福太郎「そうなんよ。それで謝れんでこわがっとるんよ」

少女「きちんと謝ればゆるしてくれるよ!」

母親「帰るわよー」

少女「はーい、お兄ちゃん達ばいばーい」

福太郎「はい、バイバーイ」

鬼『ば、ばいばい……っでも、何をどうすればいいんスかね……?』

福太郎「んー……ちょっと妙案考えたけん、夕飯の時に試してみよか」

鬼『え?夕飯?』
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