第零夜『変わり始めた僕の日常』

ズキン、ズキンと痛みが走るおでこを押えて俺はいった。

「痛っっ……いや、その子や無いで、その子は……俺を食べようとした子や」

自分でいっておいて誤解を招く言い方だったが、そうとしか説明できないし仕方がない。悠の声が真剣身を帯びていった。

「食べようとしたって……性的に?」

「こんな状況でパニクらんとそういうこと言える悠が凄いと思うわ。ほんまに……。」

「そんなに褒めるなよ。それで、この子は本当に大丈夫なのか?」

俺は頭を縦に振った。たぶん、最悪食べ物をあたえておけば大丈夫なはずだ。悠は彼女をそっと下ろす。

「おーい、ルーミア、平気か?」

「へ、へいきなのかー。フクタローこんばんわなのかー」

「こんばんわ。また、来たんやな」

「ずーっと、探してたのかー。昼間来てみたら何にも無くて驚いたのかー。魔法なのかー?」

探してた?昼間来てみたら何もなかった?どういうことだろうか……答えにたどり着く前に、それについて答えてくれる奴が現れた。

「あら……あらら、何だか知った気配があると思ったら……。」

何処からか聞こえて来たその声は今この部屋にいるはずのない者の声。それが部屋の中から聞こえてくる。何処から聞こえてくるのかと四方を見渡すと中央に黒い糸のようなモノが走っていた。そして、その一筋の線からぬっと白いモノが生えた。後ろには当然なにも無い。ズルズルと出てきたそれは人の指、白い質のいい手袋をはめた手が出てきてグッと両開きのドアを開けるように空間を開くと白いドレスの中央に紫の幕(?)がある中華風なような西洋風なような格好に帽子をかぶった金髪の女性が上半身だけを前のめりにして俺たちの前に現れた。
声と気配から推測するに彼女は昨日の見えない彼女だ。

「八雲紫……。」

そういったのは悠だった、彼と彼女は知り合いなのだろうか。

「久しぶりね。小鳥遊悠に……揺光。」

ヤクモユカリから知らない名前があがった。なんとなく悠に視線を向けた。彼は軍パンの尻ポケットに手を突っ込んで何かを掴みだした。握った拳をひっくり返して開くと赤……いや、深紅色の宝石が露わになる。綺麗ではあるが何処かおどろおどろしいその宝石からボッと火柱が上がった。天井まで届き火の粉が飛散するが熱くない、それどころか一切焦げくさくも無い。湧きあがる火柱が徐々に人の様な形となり……炎の中から女の人が現れた。真っ白なキャンパスにうっすらと桃色を広げた様な長髪にやたら露出の高い巫女(?)服に手触りが良さそうなモフモフの尻尾が九本ある。

あっけにとられてると悠がいった。

「いちいち登場が派手なんだよ。」

【演出は大事じゃ。一発目でかましておかんと舐められるからのぅ】

「知り合いにやったって仕方ないだろ……。あ、福ちゃん。この女は揺光、白面金毛狐。九尾の狐だ。一応チート級の能力持ちだから切り札として連れて来た。」

有名な九尾の狐……殺生石になって砕かれたっていう伝説は俺でも知っている。そんな最凶妖怪の揺光は俺に向けて手を差し出した。

【揺光じゃ。よろしくのう】

「あ、ども、御堂福太郎ですよろしゅう」

普通に握手に応じてしまった。どうでもいいが、軽く腕を揺らしただけなのに、揺光の控えめにいって巨大な胸が揺れているのをつい見てしまった。

【さて……紫よ。貴様なにをしておる?】

上半身だけの女がいった。

「何してるはこっちのセリフよ。なんで、こんな所でも会うのかしら……っていうか、私もちゃんと自己紹介していい?あと座りたいんだけど」

にゅるんと全身を空間から出した彼女は綺麗に着地する。ちなみに土足だ。

【ああいっておるがどうする?】

「まぁ、自己紹介してもうとるほうがええかな」

「ありがとう。私は八雲紫、隙間妖怪よ。それと……ちょっと、お邪魔な人はご退場してて貰おうかしら」

彼女がパチンと指を弾く。一瞬なにをしたのか分からなかったが辺りを見渡すとルーミアの姿が無くなっていた。あと、さっきまで起きていたミツバが眠っている。良くこんなバタバタ状況で眠れるもんだ。それにしても、ルーミアは何処にいったのだろうか?

「あの妖怪はちょっと出ていって貰ったわ。その猫ちゃんも私が眠らせたのよ」

「また心ン中読まれたし……どういう力なんや」

紫は答えはくれずにクスクスと笑った。
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