第拾弐夜『福太郎の不思議な日常』

ー福太郎の部屋ー

形部『以上だ。邪魔をしたな。』

福太郎「いえいえ、こちらこそどうも」

形部『ときにクロといったか』

クロ「はっ」

刑部『お前は社を持たぬ犬神のようだが』

クロ「はい」

形部『社はどうなったのだ?』

クロ「ずいぶん前になりますが取り壊されてしまいました。」

刑部『そうか……それは苦労したのだな。』

クロ「いえ、大丈夫です」

お仙『私が居るもんナ!!』

クロ「ぶん殴りてぇ」

福太郎「形部さんも犬神なんですよね。クロとはどう違う感じなんです?」

形部『大して変わらんさ。ただ少しばかり長生きをしているのは確かだがな』

クロ「正しい意味で神域におられる方と私とでは違いすぎますよ」

お仙『大丈夫だ、可愛さなら勝ってル』

クロ「ちょっとホントに黙れ」

刑部『しかし、社を失っても邪の道に堕ちていないのは本当にすばらしい』

福太郎「邪の道?」

形部『福太郎殿は犬神の本質をしっておられるか?』

福太郎「ええと、あの呪いの?」

形部『その通り。もともとは呪詛に使われるために生まれることが多かった犬神、我ももともとは他者を呪うために生まれたのだ』

福太郎「へー、それでも今は神さんとしてやっとるんですか」

形部『うむ。呪いの依代として生まれた犬神を救う活動をしていたらいつの間にかな』

お仙『スゲー』

メリー「じゃあ、そとにいたのは全部、犬神なの?」

形部『犬神もいるが他の妖獣などもいる。今では行き場のない者たちの世話をしているのでな……。しかし、情けないことにそういった者たちの中でもやはりはぐれ者や我の手の届かない者たちが居る。』

福太郎「それが例の人面犬……と」

形部『うむ…。その迷惑が我だけのもので有ればいいのだが……』

リュカ「まぁ、お茶どうぞ」

形部『ああ、これはすまぬ。ズズッ』

福太郎「別の場所にも迷惑が?」

形部『人間に手を出せば当然、鎮伏屋も動く、そして天狗たちの耳にも入る』

福太郎「天狗?」

形部『犬神のなかには白狼天狗になるもの多くてな、山では犬神と天狗は連合を組んでいるのだ。ただ……正直言えば天狗は普通に有力者が多い。』

福太郎「ほうほう」

形部『なので我らの不名誉は天狗界にも響く』

お仙『大変だナ』

形部『はっはっ、その通りだ。』

クロ「軽口過ぎて申し訳ない……」

形部『よいよい。』
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