第拾壱夜『福太郎の不思議な日常』

ー夢見長屋:庭先ー

蛇『しゅるる、しゅるるー!』

ハム一朗『慌てることはねーよ二人とも。下がってな……。昔飼い主んとこのテレビで見たろ?まず、獲物に噛みついて絡みつき、窒息させてからゆっくり飲み込むのが奴らのやり方さ……だがしかし、だ。俺達はもうただのハムじゃねえってことを忘れたのか?』

ハム次郎『兄さん……』

ハム一朗『牙なんざ通さねぇ厚い毛皮に巻きつかれてもするりと抜け出せるだけの腕力をすでに身につけている。つまりどう考えても負ける要素はないっ手寸法さ。まあ見てな、お前らに元天敵のいなしかたってやつを見せてやるからよぉ!』

バッ!と勢いよく蛇に向かって飛びかかるハムスターはパクリっとひと口で蛇に咥えられる。バタバタと足を振って抵抗するとどうなったのかちょうど一回転して蛇の口から顔だけが覗く。

蛇『フゴゴ』

ハム一朗『……参ったなこりゃ。まさかいきなり丸呑みとはアグレッシブな蛇公だよ、コイツってば』

ハム次郎『うわぁぁぁ!兄ちゃーん!』
ハム子『きゃああああぁ兄様ー!』

咄嗟に髭を掴んで蛇の口から引っ張り出そうとする。

ハム次郎『兄ちゃん今助けるよ!』

ハム一朗『お前らの力じゃ無理無理。コイツの吸引力半端じゃねーよ。ダイソンもびっくりだよ。つーか、それ痛いからやめてやめて。痛いくらいなら死んだほうがまし。』

蛇『ぐぁ、んぐっ!』
ハム一朗『どうやら俺のハム生はここまでのようだ……生まれ変わったら、今度はモル……モットに……』

ハム次郎『にいちゃーーーん!!』

ハム子『兄様諦めるのはやすぎよぉーーー!!』

冥「よいしょっと」
ペシッ
蛇『くぁっ』
ポロっ
ハム一朗『ぶぁっ』

冥「あんまりこういうのは良くないのだけど……同じ獣妖のよしみとして助けてあげますナ。あと、五十年もしたら蛇にも食べられない立派な妖獣になりますナ。立派に生きるといいですナ」

ハム次郎『にいちゃーん!』
ハム子『兄様ーー!』

福太郎「管理人さん」

冥「これは福太郎さん、こんにちはですニャ。そちらの方々はどうしましたナ?」

福太郎「いやー、ハムたちの会話を翻訳したら爆笑してしもて」

クロ「あはははっ!」
お仙『ハハハハッ!』

冥「蛇さんは代わりにこれをどうぞですナ」

蛇『がぷっ。』
しゅるる

福太郎「今のは?」

冥「キャットフードの肉団子ですナ。餌を食べそびれたお詫びですナ」

福太郎「ああいうんは助けたらあかんのですか?」

冥「んー、やっぱり妖怪は自分の力で生き抜いてちゃんとした妖怪になるべきですから、本当はむやみやたらに助けるのはよくないですナ。」

福太郎「ペットの面倒は最後まで見るみたいな感じですか」

冥「そういうことですナ」

ハム一朗『助けていただいてありがとうございます』
ハム次郎『ありがとうございます』
ハム子『ありがとうございますわ』

冥「気をつけて生きてくださいナ」

福太郎「……管理人さんて猫妖怪やけど鼠は」

冥「さすがにむやみやたらに飛びかかったりしませんニャ」
ブンッブンッ

福太郎「めっちゃ尻尾振っとる」
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