ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました

ー大江戸学園ー


雪那「ふふふ。それにしても、こんな子供だましに引っ掛かってしまうとは、現体制への不満は押さえきれないほどに高まってるのかもしれません。」

悠「雪那さんは天狗党のやり方に賛同するのか?」

雪那「天狗党の言い分は現体制への批判に終始していて、倒幕後の新体制についての言及がありません。感じられるのはただ権力を略奪したいという野蛮な思いだけです。施設への放火などこれまでの蛮行を鑑みても、本当に学園の現状を憂いているとは到底思えません」

悠「なるほど」

雪那「すいません、お引き留めしました」

悠「いや。」

雪那「南町で乙級の生徒相手の私塾「張孔堂」を開いています。またよろしければお越しください。学園の将来についていろいろお考えのようだし」

悠「いや、そいうわけでも…」

雪那「では、失礼。」

悠「……」

新「あたしたちも行かなきゃ、遅刻しちゃうよ?」

悠「いや、おれは別にここの授業に出なくていいんだけど…」

新に手を引かれながら歩き出すおれ。

新「賢そうな人だったね」

悠「ちょっと怖いくらいだけどな…」

おれは隣を歩く新の横顔を見る。

新「あ……なんか馬鹿にされてる気がする」

悠「いっひっひ。気のせいだ。気のせい。」







昼休みには朱金を交えた三人で食堂に来ていた。

朱金「天狗党の奴らが全校集会当日に何か企んでるのは間違いない」

朱金は食後のお茶を口に運びながらそう断言した。

悠「ほむ……あ、間違えたふむ。」

朱金「ただ、わかったのはそこまでで、計画の詳細まではわからなかった」

悠「天狗たち、全部吐いたわけじゃないんだな。」

朱金「かなり厳しく取り調べはしたんだがな」

新「拷問だ。拷問だ。」

朱金「人聞きの悪いことをいうな。火盗じゃあるまいし。奉行所の規則に触れるようなことはやってない!」

悠「想像以上に口が堅かったのか?」

朱金「いや、あつらは下っぱで一番大事な所は元々教えられて無かったらしくてな」

悠「ああ、なるほど。」

朱金「ま、あとは網を張って、泳がせてる連中の動きを待つさ。それよりも問題は親玉のことだな……」

浮かないかおで湯飲みを置く朱金。

悠「何かやんごとない相手、徳河家の関係者の可能性が高いんだろ」

朱金「んあ!?な、なんで悠がそんなこと知ってんだ?」

悠「養生所のかなうさんがいってたんだよ」

朱金「先生か。相変わらず鋭いなぁ」

悠「相当厄介な相手らしいな。大丈夫なのか?」

朱金「もちろん大丈夫じゃねぇよ」

朱金はそういって頭を掻いた。

悠「だいじょばないのかよ」

朱金「天狗党の首領の天狗御前が徳河家に繋がってる者だってところまでは突き止めたんだ。けど、決定的な証拠がまだないんだ。そこでもう一歩踏み込んで捜査をしたいんだが…そのやんごとない身分ってのが立ち塞がっててな」

悠「奉行所の捜査も立ち入れないような聖域なのか。」

朱金「ああ。たとえ執行部の連中に掛け合っても難しいかもな。執行部の連中も徳河の息のかかってるのが多いし…」
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