ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕

ー大江戸城:堀周辺ー

寅「うっ……?!」

灯「うん。取れた」

何が起ったのか。自分の視界が正面から、真上へと変わり、天を仰ぎながら寅は自分の現状を振り返る。

スピード、威力、角度とも申し分ない右拳を放った。理想の軌道に沿って灯へと伸びていく。

ここまではよかった。ここから……灯は拳の動きに寄り添うように後ろへと倒れる。目測が失われ、腕が伸びきったとき飛び付かれた。そのまま上腕部を両脚で挟んで固定され、親指を天井に向かせる形で手首を掴かまれ、仰向けに倒されている。

寅「ぐっ……」

払いどけられない。華奢な身体の灯に完全に抑え込まれている。

灯「本来ならこの状態から骨盤のあたりを支点にして腕を反らせると、肘関節が可動域を越えて極まるよ。肘を曲げて逃れようとしても無理でし?」

寅「くっ……」

かけ手の背筋力のほうがはるかに強いため、一度腕が伸びてしまえば二人の体格差があっても……。

雲山「技を外すことは不可能に近い……ということか」

灯「よっと……うん、そういうこと。たてれる?」

寅「あぁ……綺麗な顔してやってくれるな」

灯「忍者ですから」

寅「……」

雲山「忍者はともかく、押さえつけての関節技ではなく、カウンターでの関節技は今の通り一瞬で決着がつく。」

寅「だろうな。腕を捨てちまえばぬけられるかもしれねーけど、足を取られたりしたら……厄介だ」

灯「そうだね。だから、掴みに大しての対策は十分会得していてほしい。まぁ、それはおいおい教えていくとして……今日はもういいんじゃないかな?」

寅「いや、まだ……」

雲山「そうだな」

寅「おい!」

雲山「詰め込み過ぎはよくない。ここまでにしよう」

寅「……ちっ、分かったよ。」

灯「汗かいちゃったし……お風呂入りたいな」

寅「風呂か……確か近くに銭湯があるが」

灯「いいね。行こうよ」

寅「……」

灯「どうかした?」

寅「いや、アンタを銭湯に入れるときっと誤解されるんだろうなと思った」

灯「あはは、そんなことないよ」

寅「……」

雲山「ま、まぁ、男ではあるから大丈夫だろう」

寅「いや、大丈夫なんだろうけどな……」

灯「じゃあ、行こう」

寅「あぁ……っか、そういえば左近から連絡がねぇな」

雲山「頑張ってくれているのだろう」

灯「もし今日中にあの民家に泊まれなかったら寅君の家に泊めてもらおう」

寅「はぁ?!」

雲山「あぁ、私は帰るから灯だけ泊めてくれれば……」

寅「泊まるならせめてお前もいろよ!色々といずれぇよこいつとひと晩とか」

灯「ん?」

雲山「男だぞ?」

寅「分かっていってんだろ」

雲山「ははっ、冗談だ。善処しよう」
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