ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕

ー大江戸城:堀周辺ー

寅「……」

灯「どうかしましたか?」

寅「……アンタと対峙するとやりにくさが一層増すよな」

灯「安心してください。私からは一切手を出しません」

寅「あ?」

雲山「遠慮なくやっていいぞ」

寅「……なら、遠慮なく行くぞ」

灯「はい。」

寅「ふぅっ……」

地面を二度三度軽く踏み、寅の鋭い拳が放たれる。

灯「……」

しかし、寅の拳は灯の顔寸前で止まる。

寅「?!」

灯「さぁ、どんどん来てください。」

寅「……」

どこか小悪魔っぽく笑みを浮かべる灯。寅は背筋に冷たいものを感じつつ拳を固めた。

今度は右のストレート。しかし、ダッキングによる回避で当たらない。そこからの左のローキック、灯は半身を翻し舞うように攻撃を回避する。

当たりそうで当たらない、寅もようやくエンジンがかかり出した。敵は目の前にいるしっかりと足を地面につけてフルラッシュで敵を撃つ。

しかし、どの打撃も当たりそうで当たらない上下左右に器用に身体を振って打撃の芯を確実に避ける。自分と同じように地面を踏みしめている下半身を狙おうとするが、出鼻をくじくように蹴りの射程一、二歩分だけ距離をあける。

雲山「そこまで。もういいぞ」

灯「ふぅ」

寅「……意地になってるわけじゃないが当てるまで続けていいか?」

雲山「やめなさい。そういうトレーニングではないのだから」

灯「概ねの強さは分かりました。さすがの強さですね。」

寅「ひとかすりもしてないのにそういわれると嫌味にしか聞こえねぇな」

灯「いや、本音ですよ。多分続けていたら何発ももらうはめになっていたことでしょう。」

寅「どうだかな…」

雲山「スピード、威力とも上々。あまり私たちから教えることはないような気もするが…」

寅「そういう訳にはいかねぇんだよ。」

灯「じゃあ、せめて私からは掴みに対する技術を教えるよ」

寅「掴み?」

灯「ボクサーStyleの寅君には投げ技はありませんよね?そうなると掴みに対する対策があるといいんじゃないですか?」

寅「そういわれるとそうだが……。」

灯「そうでしょう。掴みを制することが出来たなら他の攻撃に対する動きも自然と身につきますから悪いことは有りませんよ」

寅「……なんだか上手いこと丸められた気がする。」

雲山「なら私はカウンターを教えよう」

寅「カウンター?」

雲山「あぁ。後の先はボクサーにとっても重要な技術だろう?」

寅「まぁな、だが、実際そのカウンターを見せてもらわないと……納得できないぜ」

雲山「……しかたない。来たまえ」

寅「あぁ、遠慮なく行くぞ」

手始めに灯どうようにジャブを放つ。雲山のガードを固め、ジャブを甘んじて受け止めた。灯ほど細かい動きはなく、亀のように硬く構え打撃を受け続ける。

雲山「……むんっ!」

不意に腰をガクッと落した雲山、寅のラッシュを掻い潜り深い一撃が突きささる。

寅「ぐっ!」

雲山「鬼角(きかく)。どうだ?鬼の角は?」

寅「げほっ。や、やるじゃねーか。」
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