ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕

ー大江戸学園:頂上ー

エヴァ「これで終わりにしてやる!」

指先がその端末の表面へと伸びる。間違いない、あれが起動装置だ。

やらせるものか!

悠「うおぉぉぉおおおおっ!!」

エヴァ「ぬがあぁっ!?」

ためらうことなく、エヴァに全力の体当たりを見舞う。

端末がエヴァの手から飛ぶ。それを取り戻さんと、エヴァの手が伸びてくる。

白フード「させん!」

悠「渡すかっ!」

白フードの風の拳がエヴァの顔を打つ。そして、おれはその身体を突き飛ばすようにして遠ざけつつその反動を再度利用して端末を掴みに行く。

吉音「駄目!悠っ!!」

吉音の声が耳に届くと同時に衝撃が来た。視界が回転する。一瞬の浮揚感のあと、背中側から風圧が襲ってきた。スカイタワーの頂上、その縁が最初はゆっくり、徐々に加速して遠ざかっていく……。

たちつくす詠美や、へたり込んでいるエヴァの姿が視界から消える。

代わって遠くから見上げるしかなかった外壁が現れた。おれの身体が、屋上を離れ、外壁の外にまで、放り出されている。

落ちるっ……!

吉音「えぇぇええーーーいっ!」

そこへ、一旦は消えた吉音が再び現れた。

マゴベエの急降下をカタパルトに、おれの自由落下を遥かに上回る速度で追ってきた。

悠「吉音!?」

吉音「悠ぅぅーーッ!!捕まえた!」

おれの手首が吉音にとらえられ、力強く握りしめられた。途端に猛烈な風圧が下から襲ってくる。

悠「な……なにやってんだ馬鹿!なんでお前まで飛び降りてんだよ!この高さが分かってないのか!?助かるような距離じゃない、なんで無事だったお前までが!!」

ゴウゴウと流れてゆく風音、激しくはためく着物の裾が煩い。

吉音「悠を助けるために決まってるでしょっ!!」

その中でも、不思議と吉音の言葉は何よりも鮮明に聞こえた。

悠「……!」

吉音「ぜぇったいにっ!諦めたりしないんだからぁぁあっ!」

吉音の刀が、スカイタワーの外壁に突き立てられる。

悠「ぐぁあああっ!!」

その瞬間再度天地が逆転し、腕にもぎ取られそうな衝撃が走った。地上からひかれるばかりの中、逆方向からの強い抵抗が生まれる。

吉音「落ちるまでにっ!止まればいいだけだっ!」

刀でブレーキをかけているのかっ!?

吉音にはおれ以上の痛みがあっただろうに、それでもおれの腕を離さなかった。

激しい摩擦で火花が飛び散る。だがそれも猛烈な速度で上方へとスッ飛んでいく。

ここまで勢いが着いてしまった落下だ、おれたち二人の体重を支えるなんて普通に考えて出来るはずがない。

悠「なんで、こんなことまでするんだよっ……」

吉音「お話をっ、ハッピーエンドにするんだよっ!!ヨリノブにも、キュウビにも勝ったのに、ただ落っこちるだけなんかに負けるはずがないっ!!」

悠「吉音……。う……おおぉぉおおっ!!」

二筋の火花が長く糸を引いて伸びていく。身体に伝わってくる振動と衝撃は倍増し、ガクガクと四方から激しく揺さぶられる。

僅かに速度が落ちてきたような気もするが、しかしこれではまだまだ結果は変わらない。

マゴベエやタケチヨが居ればと思うが、二羽とも力を使いはたし、消滅してしまっている。でもここまでされて、おれだけが諦めているなんて真似が、出来るはずがない!

最後まで、何も出来ないままで……カッコ悪いままでなんて、終われるかっ!!

柄巻きがしてあるにも関わらず、刀が燃えるように熱い。腕が弾き飛ばされそうになるところを、強引に抑え込んで更に摩擦を強くする。

吉音「くっ……ぅっ……ううぅ!止まれ、止まれ、止まれ、止まれ、止まってよぉっ……!!」

悠「このままの勢いじゃ……ぐっ、おぉぉおっ!」

諦めはしない。しかし夢ばかり語っていても意味がないことも確か。

視界の端に見える地面は、既に屋上よりも近い位置にあり、それが目に見えて大きく迫ってくる。

誰か、他からの助太刀がなければ、結局このまま……。
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