ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕

ー大江戸学園:頂上ー

白フード「むっ……」

悠「オラァァ!」

全力で放った拳が空を切る。避けられた。それどころか、白フードはおれから距離を空けてエレベーター出入り口の上に逃げて、戦闘を完全に放棄した。

それよりも、我が眼を疑う事が起きた。いきなり竜巻が立ち上ってきたのだ。

白フード「このトルネードは…………そうですか。終わりましたか。」

悠「おい、何いってやがる。降りて来い!」

鼻から垂れてくる血を拭いながらおれは叫んだ。

白フード「タイムオーバーだ。私はもう手を出さない。お前の好きにしろ。」

興味が失せたように腰まで降ろした。本当に傍観するつもりのようだ。

エヴァ「おい!貴様!」

白フード「黙れ、女。私はお前に指図されるいわれはない。」

完全に切り捨てた物言い。おれの気持はやや収まらないが、ほっといてくれるっていうのなら、もういい。こっちだって翠龍の毒を長時間は酷使したくない。

おれは腰で発熱しつづけている刀に手をかけた。

固く閉ざされ、いくら力を込めても抜けなかった刀の鯉口が切れる。そのまま柄を引き、秘されていた刀身をあらわにしてゆく。

長らく収められていたとは思えないほどに美しく、鏡のように磨き上げられた刀身。

それが払暁の近い空を眩しく映し出す。

悠「出て来い……剣魂イエヤスっ!!」

一際強い輝き、炎でも吹きあがりそうなほどの熱。それが中空の一点に集中していく。

顕現する……学園の頂点に君臨する、将軍にのみ使用が許されている、最高位の剣魂が……!

出現したのは。タヌキ型だろうか、やや小柄な剣魂だった。

吉音「しゃ、しゃべってる!?」

詠美「すごい、会話能力まであるというの」

イエヤス『……ワシを抜いたのはお主か?』

悠「あ、ああ……」

イエヤス『なぁんじゃ男か。どうせ抜かれるなら愛らしい女子がよかったんじゃがなぁ、ヒョヒョヒョ』

悠「…………あ?」

イエヤス『んん?よぉ見れば、大きいのからちっこいのまでよりどりみどりではないか!だというのに何故よりにもよって、外れくじを引かされてしまったんじゃ……まったく忌々しいわ』

人間の言葉を話せることには驚かされたが……なんだこの、無礼極まりないオッサンは。どことなく後楽と同じ臭いがする。

これが将軍専用の特別な剣魂だって……?

悠「おい……お前、本当に将軍の剣魂なんだろうな」

イエヤス『もちろんじゃ。ワシのように神々しい剣魂が他におるか?』

悠「神々しい……かどうかは別にして、まぁ他にはいなさそうな剣魂ではあるけど」

イエヤス『それはそうじゃ。ワシはそこらの汎用型とは違う「わんおふ」じゃからな。あ~あぁシャバに出るのも久々じゃわい。ここから見下ろす限り、学園はあまり変わりがないようじゃのう』

イエヤスは緊張感のカケラもなく、下界を見下ろして感想など述べている。

低級剣魂の出現で混乱に陥っていて、すぐそばで竜巻があがってる学園を見て、何が変わりないか……。

まさか、以前にもこんなことがあったってことじゃないだろうな。

悠「……」

イエヤス『うむ。しかし女子は華やかになったのぅ。自分磨きを怠っておらん証拠じゃ。素晴らしい。特にワシはムチムチとしたふとももには目がなくての……ふへへへへ』

出てきて早々、何をいってるんだコイツは……。タヌキだからか?狸爺は全部こんなのなのか?馬鹿なの?死ぬの?コイツをセッティングした主は、何を思ってこんな性格にしたんだ。

もしかしてずっと使われてこなかったのって、こんな性格だからなんじゃないのか?

吉音「……ねぇ、なにもしないの?」

悠「っとそうだ、あんたなにか凄い力を持ってるのならあのキュウビを止めてくれ!」

イエヤス『なんじゃ、それが他人にものを頼む態度か?こう酒の肉の席を用意するとか、美女によるアレやコレやがあるとか』

悠「今は非常事態なんだっ!できるのならさっさとやってくれ!」

イエヤス『なんという口の利き方じゃ小童が!年長者を敬わんか!』

悠「刀ごと存在をへし折ってやろうかこのジジイ!!」

エヴァ「い……い……いい加減にしろ……」

おれとイエヤスの問答に割って入ってきたのはエヴァだった。こめかみに青筋を立て、更に強く苛立ちが表に出てきている。
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