ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕

ー大江戸学園:エレベーター前広場ー

魁人「ぐぅ……ぅぅぅっ!」

地面を踏み続ける魁人、その姿はただ直立しているだけにも見えるが足への負担は相当のものだった。無残に敗れ散っていく布、裂ける皮膚、吹きだす血液、既に足は限界を超えているのだろう……。

両足は踵の部分からふくらはぎまで赤黒く変色していっている。鬼状態で龍剄を無理矢理跳ね返しているのだ無理もない。

禍「器用なことしやがる。」

天「せやけど、そこでそうしとったら結局は地面にクギヅケになっとるやん。ワイがおること忘れとるんちゃうやろな?」

伊万里「テメーこそ俺を……」

雷太郎「俺たちを忘れてんな!」
風太郎「俺たちを忘れてんな!」

飛びかかる伊万里に続いて雷太郎と風太郎。

想「及ばすながらお手伝いします!」

久秀「今日は厄日だわ。」

想と久秀も前に出た。

魁人の振動返しで動けるようになった四人に伊万里は叫んだ。

伊万里「お前ら!」

雷太郎「伊万里さん、引っ込んでろとかいったら……」

風太郎「まずアンタを殴るぜ」

雷太郎「あのクソ野郎はとっくに」

風太郎「俺たちの敵だ!」

天は腕の掲げて二度三度と空を回した。そして、大きく足を振り上げる。一度、二度、三度、四度……無数に足を大きく振り回し続ける。その回転速度がある一定を超えた瞬間、大型四足獣じみた義足が爪を広げるように変形した。

雷太郎「へっ…馬鹿やろ……」

獣の爪だった形から、猛禽類が翼をひらいたような猛々しい姿。天はその形状になった瞬間、振り回し続けていた足を横なぎに振るった。

風太郎「こっちは五人がかりだぜ…」

天を中心に吹き荒ぶる風。それはただの風ではない全てを呑みこみ薙ぎ倒す龍巻(トルネード)。

伊万里「くっ……そ……。それで……も……これなら……どうやって……勝つんだ……こんな……化け物どもにっ……」

地面に伏せていなければ渦巻く風に吹き飛ばされる。

想「きゃっ!」

伏せていれば巻き上げられた瓦礫等が飛び交いぶつかり肉体をむしばむ。

久秀「これは……ヤバいわ、ね。」

火薬など放とうものなら風に呑まれ散っていく。投擲しようものなら風に呑まれ散っていく。動こうものなら風に呑まれ吹き飛ばされる。

絶対的な龍巻フィールド。その中心で天と禍は悠然と伊万里達を見下ろしている。

伊万里「ぐっ……橙竜よ…」

超連打で天の風を押し返そうとしたが……。

禍「もうええちゅーねん」

ドッ!と身体が重くなった。禍の放つ振動がさらに威力を増した。もはや魁人の超々スタンピングでも跳ね返せないほどの振動。立つことも許さない龍巻と動くことも許さない灰翠の波。

天(あまつ)神と禍(まがつ)神の処断は止まらない。

天「まぁまぁ楽しかったわ。生きとったらまた相手したる。」

禍「んっ……はぁぁっ!」

禍の上半身の筋肉が膨張したかと思うとズドンッと大きな振動が起きる。瓦礫の大小さまざまな塊りが跳ね上がった。

天「ほな、サイナラ」

禍の背後で、天が真横にケリ払った。

空中で留まっていた瓦礫の塊りが空圧に押し出され、無数の弾丸のように発射された。もちろん狙いは定まっていない。定める必要がないのだ数え切れないほどの数の瓦礫の弾丸は例え風と振動に動きを止められていなくとも避けるのは容易ではない。

魁人「はぁ……伊万里。ひとこといいかな」

伊万里「なんだ、逆転の策でもあるのか?」

魁人「いいや、ただ彼らを失う訳にはいかない。」

伊万里「ちっ、だいらお前と組むのは嫌なんだ。姫川魁人。敵であっても味方であってもいつも俺に命を賭けさせる。」

魁人「すまん……「向こう」に着いたら思う存分、私を殴っていい」

伊万里と魁人は最後の力をつかって雷太郎達の前に出る。そう盾になるように……。

伊万里「……だからお前は嫌いなんだよ……ここまでして報酬はたったそれだけかよ。」

魁人「ふっ、イヤか?」

伊万里「ふん……悪い気分ではないさ。」

死の弾丸が容赦なく降り注いだ……。
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