ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕

ー大江戸学園:エレベーター前広場ー

禍は翼のようなフードを脱ぎ捨てるとゴォンと鈍い音がした。布から発せられる音ではない。視線を移すと、布が破けた下からは金属のプレートを編み込んだモノが覗いている。今まで何十キロの加重を被って戦っていたのだろうかこの男……。

魁人「うおぉぉ!」

伊万里「はあぁぁ!」

鬼と竜の連射波状攻撃。

禍はそっと腕をまっすぐ伸ばした。衝撃を受けたのであろう空間がへこみ歪む、だが、それに全ての打撃が阻まれてしまう。

伊万里「なんだ…ありゃ…」

魁人「馬鹿!空気の壁だ!!」

禍「もの忘れはげしいんちゃうん?自分ら、ワイは……「九頭竜天」とまったく遺伝子を持つんやで?」

魁人「馬鹿な……今までの俺達の攻撃は……」

伊万里「全てこの風の壁に阻まれて……っ、おおぉぉ!」

ならば、更に接近し風を使わせないようにと距離を詰めようとする伊万里。しかし、その身体の動きが止まる。

伊万里だけではない、近くにいる魁人も、離れたところにいる雷太郎たちも身体が動かなくなっていく。

禍「自分らホンマアホちゃう?ワイは現役の灰水晶の龍でもあるんやで」

動いていないはずの禍の足元のタイルがどんどんひび割れ。波紋状に広がっていく。

天「禍はなワイと同じ遺伝子もっとるのにあえて九頭の鎌首のうち七つの龍を捨てたんや。いや、食ったんよ。のっこったんは翠と灰。そん二つに重点を置いた最強。灰翠の龍(ジエドオブドラゴン)。」

水晶振動周波というものを知っているだろうか?

物質は全て固有の振動を持っているが、特定の「石」の持つ振動周波は特に正確で時計などにも応用されている。

経験ないだろうか?例えばマッサージ機のような振動を続ける物体に触れると手が離れなくなるという現象……コレは手と振動体が共振し、一体化するために起る現象でその周波が正確であればあるほど強力になる。

禍から放たれる振動の波に触れたものはまるで水晶の塊りになったかのように地に縛り付けられてしまう……。

天「なぁ、エエもんひろたで。これ折れたポールなんやけど丁度ええんちゃうか?」

動けない魁人達を余所にへらへらと笑いながらへし折れた部位が鋭利に尖っている鉄の棒を引きずりながら天が禍に近づく。

禍「ええなぁ」

天「ほな気張っていこや。リアル黒ひげ危機一髪!どやスリル満点やろ。あいにくハズレはひとつもあらへんけど。」

禍は投げ槍をするようなポーズをとる。狙いは伊万里か魁人……。

禍「他のもんらは……まぁ関係ない奴らやから大目に見たるわわ。とりあえず竜と鬼のふたりは……死ね。」

容赦なく放たれる殺意の塊。見えて聞こえている……だが、身体は動かない。死を覚悟した瞬間殺意の塊りの前に何かが飛び出した。

ダンジョー『ジョォォォ!』

禍「あ?」

久秀「剣魂は……動くみたい、ね。」

久秀の剣魂ダンジョーがポールを弾こうとしたがパワー負けして貫かれ、光の粒子になって消えていく。しかし、その僅かに出来た隙を久秀は見逃さない。

一直線に飛んでいく火薬をたっぷり含んだ扇。それをダンジョーが最後の力で着火する。当然の大爆発……。

天「へぇ……やるやん。せやけど、届かんわ」

やはり爆発は風の壁に阻まれてしまった。禍だけではない、天ももちろん風を壁を出せるのだ。

禍「はぁぁ……はっ!!」

禍が力を込めると地面のひび割れがさらに深くなる。振動の波が更に増したのだ。再び、身体が固まっていく。

魁人「ぐ……命を賭ける!」

天「阿呆。どないに鬼状態になっても動けな意味がないやろ。」

魁人「手品の種はバレてるんだよ!!紅蓮鬼よ。獄炎よ鏡となりて彼の者共に其の力返したまえ!!」

天「!?」

禍「!?」

天と禍の身体が固まる感覚。

そして魁人の足元から広がる波状のひび割れ。

伊万里「魁人……」

魁人「ぐっ……」

超々高速で地面を蹴り続けることによって灰翠の龍とおなじ振動破を生んで、力を撃ち返したのだ。
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