ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:地下コアルームー

シオン「どうせあの球の中にいるんだろ?ただコアをブチ壊してそこから引きずり出せばそれで済む話しだ」

光臣「間違ってはいないけど、歓迎は出来ないな……アレを再生するのは大変だよ」

シオン「ふん、後のことなど知ったことか。行くぞリュウノスケ」

リュウノスケ『グルルォォーーン!』

言うが早いか、シオンとリュウノスケは疾風の如く駆けだした。

桃子「あっ……乱暴にし過ぎるんじゃねーぞ!」

桃子の言葉にも耳を貸さず、一直線に光球へと突進するひとりと一匹。

柱の真下まで到達すると、シオンがリュウノスケの背に飛び乗った。リュウノスケはシオンを乗せたまま地を蹴って大きく跳躍する。

更にその背を蹴って、シオンが高々と宙に舞い上がった。

シオン「はぁぁぁぁっ……」

身体をたわめ、力を溜める。
そしてそれは、猛烈な剣風となって爆発した。まるで空間を断つかのような太刀筋。

光球は一瞬で二分され四分され六分され九分され十二分され……ゆっくりと刀が収められると、妖しく輝いていた光球は何十もの破片となって砕け散った。

その中央から、人影がぐらりと傾いてきた。

桃子「あ、あれが兄貴かっ!?」

シオンの勢いもかくやという剣幕で、桃子も柱を駆けのぼる。

その人影が倒れ込む寸前、その身をしっかりと桃子が受け止めた。

吉彦「……」

桃子「おい兄貴!兄貴!わかるか!生きてんのか!?」

吉彦「う……くっ……」

桃子「兄貴っ!!」

吉彦「あ……ぁ、あぁ……あに……き?き、きみが……もも、こ、なのか……?」

桃子「そうだよっ、桃子だ、妹の桃子だっ!!あたいがわかるんだな!?」

吉彦「ああ、桃子、きみが……たす……たすけ、きて……くれる……だなんて……」

桃子「ああ!もう心配ないからな!すぐ手当もしてやる!」

長時間囚われていたせいか、目に見えて吉彦は衰弱していた。

手足の至る所にある腫れは、注射針が突き立っていた跡か。行かし続けるための養分注入が目的だろう

吉彦「こん……な、ふがいない、あにの……た……めに、すまなっ……ぅ……」

桃子「兄貴っ!」

安心して気が緩んだのか桃子の腕の中で吉彦は気を失ってしまう。

息はある。即座にどうこうということはないだろうが、それでも急を要することには変わりない。

光臣「ふむ……感動的なシーンだね。やっぱり兄と妹はいいものだ」

文「そんな悠長なことをいっててないで、はやく養生所へ連れて行かないと!」

光臣「文はせっかちだね。もう少し気を長く持った方がいいんじゃないか?」

文「兄さんが浮世離れし過ぎなんですっ!!」

シオン「さて、もう私に出来ることはないな」

二組の兄妹のやりとりを眺めていたシオンは、興味なさげに踵を返した。

桃子「あ!おい、どこに行くんだよ!?」

シオン「さぁてね、私にもわからん。まぁ歩いていれば棒くらいには当たるだろうよ」

リュウノスケ『グルルゥ』

シオン「おっと、お前は狼だったな。ははは」

そんな軽薄な言葉を最後に、シオンは柱を滑り降りると、どこかへ去って行ってしまった。

桃子「本当に変人だな、あいつは……って、のんびりはしてられん。急いで運ばないとな!」

シオンに続き、桃子も吉彦を抱えて飛び降りる。来た道を猛然と駆け戻る桃子と文、その後ろをのんびりとついていく剣魂開発グループ。

最後に残されたのは、変人の中の変人と名高い大神伊都ただひとりだった。

伊都「はぁ。トリーちゃんとおんなじだと思って、可愛そうねってきてあげたのに。しおんちゃんとの決着はおっぱいちゃんに取られちゃったし、美味しいところも持って行かれちゃったし。こんなことなら柳宮の居そうなうえに行った方がよかったのかしら。ねぇダイちゃん」

ダイゴロー『チャン』

伊都「でもコアは壊しちゃったし、ユッくんたちの状況も変わったのかしら?」
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