ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:地下道ー

桃子「相変わらず長い地下道だな……よくこんなモン作ったもんだぜ」

文「学園島の施設の中で、最も早く整備されたそうです。ライフラインが集まっているんだとか」

学園島は半人工島。

地上から地下へ掘り進んだのではなく、地下部を先に作ってから、地上の各種施設が整えられた。

ここは作業用通路でもあったのだ。

伊都「あら……れじゃそのへんのパイプを壊したら水が溢れて感電するのかしら。面白そうですわね。」

桃子「やるなよ!絶対やるなよ!っつか全然面白くねぇよ!」

伊都「分かっていますわ。今はそれよりも優先されることがある、でしょう?」

桃子「……珍しく聞きわけがいいな。それはそれで気味が悪いな」

伊都「もぉ、わたくしに一体どうしろというんですの」

文「緊張感があるんだかないんだか……」

どたどた騒々しい足音と話声が、地下道の中で何度も反響しながら広がっていく。

しかし行けども行けども敵が立ち塞がることもなく、罠も見当たらない。

桃子「こっちが静かってこた、地上の方がヤベェ状況になってるのかもな……急がねぇと」

タマ『ぷぅうっ!』

ルート情報はタマへと送られてきている。迷ったりすることはない。桃子、文、伊都の三人は、吉彦の監禁されている場所へと走り続けた。



ー大江戸学園:地下コアルームー

濃厚な扉を開けはなった先に広がっていたのは、ドーム球場ほどもある広大な空間だった。

天井は霞むほど高く、円周を駆けるだけで息が切れそうなほどの広間。

その中央には、禍々しく揺らめく光球を添えた円柱が、天地を貫くかのようにそそり立っている。

スカイツリーと剣魂の中枢に相応しい威容だ。

桃子「うぉ……すげぇな……どうやら、アレが話しに聞いたコアってのらしいな。あの中に兄貴がいるのか……?」

文「まだ奥にも部屋があるようです。おそらく私の兄、開発チームが囚われているのでしょう」

桃子「ああ……そっちは任せたぜ。あたいはあのコアをぶっ壊して兄貴を引きずり出してくら」

伊都「あら、じゃあわたくしはどうしていればいいのかしら?」

桃子「知るかよ……新手が出てこないかとか、そのへん警戒しておいてくれよ」

伊都「はいはい。まぁ次の主役はおっぱいちゃんだものね。頑張って☆」

桃子「ああ。なにもなければいいけどな……」

三人は中央の柱へとゆっくり歩を進めていく。低く唸るような駆動音が、広間の床を通して鼓動を高ぶらせていく。

中世の町並み、文化が再現されている地上は表層に過ぎない。裏側から学園を支えているのは、この最先端の電子技術の粋だ。

「輝かしい未来を謳う大江戸学園といえど……真の姿は国と国の足の引っ張り合いと、フランした利権が絡みあった魔窟だったという訳さ」

桃子「……その蛇みてぇな耳触りな声……シオンか?」

シオン「さて……私の名にどれほどの意味があるのかな」

広間中央の巨大な柱。その前に立ちはだかっていたのは、これまで姿を消していた眠利シオンだった。

桃子から、キュウビのコアをまるで背中で守るように。

桃子「そこで何をしている。てゆーかお前なんでこんな所にいるんだ?ここがどこだか知ってるのか?」

シオン「私が知る必要もないことだ。どうでもいい」

シオン「私はただここにやってくるお前たちを叩きのめせと。そう命令されているだけだ」

桃子「命令だって……?そんなもんにお前が従ってるってのか?どうしたんだよ一体。シオンらしくねーぞ」

シオン「シオンらしく?私らしくか?ハハ……なんだそれは。そんなもの最初からありはしなかった。勝手にお前たちが作った幻想だろう」

桃子「何いってんだよお前……いつもよりもっとワケわかんねーな。とにかく今は遊んでる場合じゃねーんだ。どいてくれ」

シオン「いっただろう……私はお前を斬らねばならない。同時にお前への恨みも晴らすことができるんだ……なんとも素晴らしい舞台じゃないか」

桃子「チッ、結局そうなんのかよ。いつもと同じ展開じゃねーか」

シオン「ククク……そうだな。結局私たちは惹かれあう運命にあるのさ」

スラリとシオンの細身の刀が抜き放たれる。コアからの禍々しい光を映し、眩しく煌めく。

桃子「気持悪ィこというなよな……なんでこんなのに気にいられちまったんだか。やれってんならやってやるさ……お前が一度もあたいに勝てなかったこと、忘れてないだろうなッ!」

表情は渋々ながら桃子も金棒の柄に手をかける。

シオン「何度負けようが、最後に勝てば帳尻はあうようになっているのさ」

桃子「今日もまた負かしてやるよっ!」

ツリーの地下においても、避けられない戦いが始まった。
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