ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:ツリー直通エレベーター前ー

久秀「ぐぅっ……。はじ……ける……っ。」

弾けた泡の振動が久秀の中の水にに伝わっていく。外傷はない、しかし、手のひらから手首の辺りまで皮下出血で青黒い色が広がっていく。

泡翠「あはんっ……いい音させるねぇ」

爆炎と泡が消え、ふたりは互いの姿が見えていた。しかし、久秀は肩で息を泡翠は余裕の表情。相変わらず背を向けて足元から泡を作り始める。

久秀「くっ……」

右手は……ほとんど動かせない。左手の火薬扇で応戦するしかない。状況は最悪になった、そう久秀が考えていたとき、それを覆すものが乱入した。

「はああぁぁぁ!」

泡翠「ぬ……?」

咆哮とともにラザーの前に現れたのは逢岡想。大振りに一刀の両断が振り下ろされる。

ラザーはサイドステップでそれを避けた。しかし、同じように想も張り付くように後を追う。

想「やはり、表情が変わりましたね。」

いいかい、あの龍剄の泡は後ろ向きにしか発生しない。死角は、泡翠の弱点はフロントです。魁人に託されたアドバイスは本当に効果があったと想は心の中で感謝の言葉を述べてすぐに前の敵へと集中する。

泡翠「スィーツひとつ増えた……はぁん!」

ラザーは回れ右するようにターンステップで泡を撒き散らす。しかし、想の読みとスピードは相当だった。しっかりとラザーに食いつきフロントへフロントへと逃がしはしない。

想「逃がしません!」

銀刃を振るう。泡のガードができなくなると、蹴りで応戦し始めるラザーだが、その脚撃たるや小柄な身体から繰り出されるとは思えないほどのパワー。

想の攻めに拮抗しているのだ。刀を受け止めるたびに靴からは金属製の音が鳴る。泡を出すだけでなく靴自体が武器なのだろう。

泡翠「なかなかのスピードとパワー!やるじゃなぁい!だけど正統派すぎてつまんないねっ!」

変則的に蹴りの筋を変え、想の肩をかする。

想「お褒めいただき……光栄です!」

泡翠「!!」

正統派の正眼から振り下ろされた刃が突如鋭い突きへと変化し、ラザーの頬をかすめた。

逢岡想、剣の腕はもちろんのこと……奉行として試合だけでなく、現場に出ての実践の数は同じ奉行の遠山朱金にも実は引けを取らない。

そして、何より……今の逢岡想は最高潮なのだ。長年、徳河吉音についていた嘘という自分への罪悪感、事実を知っても許せなかった自分人への呵責……。そして、吉音へ真実を話したとき、失われると思っていた親友。

だが、親友は自分に泣いて寄り添ってくれた。

ひとに話せば大袈裟と言われるかもしれない、しかし、逢岡想にとって罪から許された、そして本当の親友になれた。その気持に応えたい、彼女の助けになりたい……その「想い」は逢岡想を極限まで覚醒させたのだ。

今の彼女は……強い!

想「はあああぁぁぁ!」

泡翠「っ……」

息切れひとつ見せなかったラザーがついに、息を吐きだした。いくら、彼女が小柄の割にスピードとパワーがあっても本命は龍剄。

後ろに向こうとしてもことごとくフロントを取られようやく焦りが見えてきたのだ。

そんな中……悪が動いた。

久秀「よくやったわ……お奉行、いいえ、逢岡想。」

技の死角はフロント、そこに集中し過ぎて視野の死角に回りこんでいた者の存在に気がつけなかった。ラザーの横っ腹に拳がめり込んでいた、しかし、威力は大したことがないとラザーが息を飲んだ瞬間、其処が爆発した。

泡翠「ぐああぁ!?」

想「!?」

久秀「ふふん、これが悪の戦い方よ?」

蒸気がこぼれる久秀の手には分厚いゴム手袋のような物がはめられていた。手の甲に仕掛けた火薬が炸裂してラザーは吹っ飛んでしまったのだろう。
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