ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:ツリー直通エレベーター前ー

時間は少し戻って……。水玉フードを脱ぎ捨て、姿を現した女はぴちっとしたダイバースーツみたいなものを首から足先まで包んでいる。ただし、肩から手首にまでは素肌だった。

また、気になるのは靴。ただのスニーカーにしては分厚く、大小さまざまな穴のような窪みがある。

久秀「あそこから……圧を発しているのね。」

泡翠「あはぁん、そうそう。あたしぃの名前は泡翠(ラザー)よ。よろしくねぇん!!」

ラザーは脱ぎ捨てた水玉フードを踏み潰した。すると何かが潰れる音がして水が散った。地面に手をついてスケートでもするかのように水を大きく足で払った。

水の煙幕、霧状にも近い水膜が久秀の視界を覆う。

久秀「武器は泡だけじゃないようね。」

突っこんでいくことは出来ない。それは久秀にとって水を被ることは最大の危機だからである。万が一にも火薬が濡れてしまえは、武器が無くなる。

水の煙幕か離れる最中、膜の一部に渦が見えた、そこから飛び出て来たのはラザー。スピンしながらドリルのように飛び蹴ってきたのだ。相当のスピードに久秀は鉄扇でその蹴りを受け止める。

泡翠「あぁはぁぁん!」

もともと体重の軽い久秀の身体はガードしても簡単に弾き飛ばされてしまう。飛ばされた先のポールに直撃……は、せず後ろ足で蹴り受ける。

久秀「ふっ!」

ポールを掴んで電燈の部分を蹴り飛ばした。技巧派といえど身体能力は上、破片や塊りがラザーに飛んでいく。

泡翠「あはっ……!?」

上半身を逸らして鉄の塊を余裕で避けようとしたラザーだがその影から久秀の鉄扇の一撃が鋭く迫った。

後頭部に直撃……していない、ぐにゃっとした形容しがたい感触。

久秀「!?」

ラザーは後ろに足を曲げてその靴の裏からぶくぶくと巨大な泡が溢れだして、久秀の一撃を阻んでいた。

即座に鉄扇を離して泡を振りほどきながら退散する。パパッパン!っと巨大な風船が破裂するような音共に泡がどんどん爆散する。

泡翠「知ってるかい?一流の菓子職人(パティシェ)は生クリームのキメを見ただけでケーキの味が分かるそうだよ」

ラザーはこう考えた。スピードタイプかと思えばなかなか…私のパワー当たり負けしない……と。

久秀「はっ…」

久秀はこう考えた。大したものね、あの小さい身体で、私のスピードについてきている…。

一瞬の間をあけて攻めに出たのはラザーだった。かく乱するようにまたスピードを見せつけるように四方八方無茶苦茶に攻撃を仕掛けてきた。

逆に久秀はそれを出来うるだけ弾き返すように力で受け返す。互いが得意なものではなく苦手な分野で相手を潰そうとするプライド勝負。

ふたつのピンボールが飛び散り合っているようなぶつかり合いは突如停止する。

久秀「なに……もうおしまい?」

泡翠「あはん、ステージが完成したからね」

久秀「ステージ…はっ?!」

泡翠「んふっ!」

そこら中にできた水たまりを見て、久秀は気がついた、敵はただかく乱していたのではない四方八方に移動しながら水を散らしていたのだと…。

泡翠は久秀に背中を見せて開脚してまたから顔を覗かせて不気味に笑った。次の瞬間、今までとは規模が違う泡が久秀めがけ放出される。

久秀「くっ!ダンジョー!」

ダンジョー『じょー!』

数が多過ぎる鉄扇と火薬扇を引き抜いて大きくあおいだ。火薬が飛散し、ダンジョーが着火する。

爆炎と水泡がぶつかり合う。

火薬の破裂を水泡が吹き飛ばし、そこから生まれた風に爆炎の火力があがる。威力はほぼ同等。

しかし、久秀はぎょっとした、自分の持っている鉄扇からぷくぅーっと泡が膨れ出したのだ。

久秀「なっ…」

そう、さっき鉄扇の一撃をガードしたときに泡がくっついていたのだ。慌てて鉄扇から手を離したが僅かに間にあわず手のひら破裂した。
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