ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:ツリー直通エレベーター前広場ー

爆炎の壁が消滅した一方で静かに熱く燃えている男がいた。

伊万里「……」

伊万里の目には敵ではなく倒れている魁人が映っている。

トライバル柄フード「ふっ、ふふっ。」

ふと、笑い声が聞こえようやく対面する敵に視線を向けた。

伊万里「何がおかしい?」

トライバル柄フード「この俺を前にしてよそ見とはな…。」

伊万里「この俺をって……誰だよ。テメェ」

帝龍「俺は龍帝(ティアマット)。橙竜の頂点に立つもの!」

伊万里「橙竜の……頂点……?」

帝龍「そうだ!」

トライバル柄フードを脱ぎ捨てると炎が逆巻いているような髪型をした男が現れる。女には持てそうな顔だが、どこか性格の悪さがにじみ出ている。

ティアマットと名乗る男が脱ぎ捨てたフードは突如発火する。

伊万里「……」

帝龍「さて……貴様も龍剄を使うのだろう?動きや気配で分かるぞ。だが、運がなかったな。我が龍は炎!貴様を消し炭に……」

伊万里「……」

帝龍「かぱっ!……はへ?」

何かをいいかけたティアマットの視界が強制的に揺れる。それが横面を殴られたと気づくことに役五秒、そして誰に殴られたのかと疑問するのに約一秒、今度さっきと逆側に視界がブレた。

伊万里「お前みたいなのが……俺は一番嫌いなんだよ」

帝龍「がっ……と、橙龍の!」

胸ぐらを掴まれようやく行動に出ようとした。っが……既に時遅し。ティアマットの顔、肩、胸に衝撃が走り。行動が強制的に中止させられる。

伊万里「遅ぇ。そして、トロぇ!」

掴んでいた胸元のシャツが引き千切れてティアマットは床に転げ落ちる。

帝龍「ぐぁっ、ばっ……俺の……ぐっ、炎よ……っ!」

床に這いつくばりながらも反撃に出ようと橙龍の剄を発言させようとする。

伊万里「だから、テメェの熱は温いんだよ。」

燃えあがりかけた炎が伊万里の放つ炎に上塗りされる。

帝龍「ば、馬鹿な…。」

伊万里「橙竜よ……この穢れた魂をその血で清めろ。」

帝龍「おっ、おおぉぉぉ、おおおっ!!」

炎に飲み込まれる。それがティアマットの見た最後の映像だった。

伊万里「……ふぅ。コイツはあとで拉致るか。色々と情報を持ってるだろうし。」

プスプスと煙と焦げた臭いを放ち血まみれになったティアマットの腕を掴んで持ち上げる。伊万里はズボンのポケットからプラスチック製の拘束バンドを何本か取り出すと、どうみても重症の男の靴を脱がせて手の親指と足の親指を拘束する。右手を左足、左手を右足とクロスさせ。例え気がついても絶対に自力では解けず、なおかつ動けもしないように念入りに……。

やるだけやったら満足したのか伊万里はティアマットを壁際にブッ転がすと、倒れている魁人の元へと駆けた。

魁人「……」

伊万里「散々ひとに偉そうなこと言っててザマぁないな。」

魁人「……今回ばかりは自分の不手際を認める。それと……見ていたが見事だったよ。」

伊万里「ふん、お前が素直だと気持ち悪いな」

橙竜の剄といっても実際に火を出しているわけじゃない。大気が地が、その摩擦によって燃えあがるような、あらゆる方向から打たれ続ける物体が時を止めたかのように為す術もなく立ちつくすしかないような……超々高速連打。

最も原始的で圧倒的手数を誇るのが橙竜の特徴であり、別名がバーニングブラッド(橙竜血)と呼ぶ。バーニングブラッド……普通ならば熱血と訳される、その言葉も橙竜に限れば意味が違う。

その体中から紅蓮の炎が吹き上がるように、その血を吹き出しつくさせて敵を倒す……。

九の頭を持つ竜の内……最も原始的で圧倒的な手数を誇る……それが橙竜の剄。
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