ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:ツリー直通エレベーター前広場ー

エレベーター前広場での戦闘が開始した様子を離れた所から見下ろす二つの影。白いフードとドット柄フードは小鳥遊悠と死の面に視線を落としていた。

白フード「今の奴は狂気と復讐欲に支配された、ただの殺人人形……しかも天さんの術で以前とは比べ物にならないほどの力を手に入れている。」

ドット柄フード「危険ですか?」

白フード「危険すぎる。猩猩(しょうじょう)、覚えておけ、闇に食われた人間がとけれだけ怖ぇかを……」

三爪が小鳥遊悠を貫こうとした刹那、離れた位置に居る位置まで衝撃が届いたかと錯覚させるほどの衝撃音が響いた。

その音の根源は剛腕が死の面を殴り飛ばした事だ、その場から数メートル転げ飛んでいく。

ドット柄フード「……」

白フード「こ…怖ぇ……こえ……」




殴り伸ばした腕を引いて咥えていた煙草を吹かす、瓦谷拳二。

拳二「ふぅー……真昼間から現れる三本爪のゾンビ野郎、か」

悠「け、拳二…」

拳二「どういう状況かさっぱり分からんが……どうやら、俺ぁの目的は当たり見てぇだな」

悠「お前の目的」

拳二「虎城(フー・チェン)ってのが居たんだが、そいつは殺されたはずなのに死体が消えた。虎城の奴にはうちの組も色々と煮え湯を飲まされて生きてるなら拉致ってこいと言われてな。っで、この学園に居ると妙な奴……王の野郎からタレコミがあって話半分に聞いて来てみたんだが……」

死の面『キ……ヒッ!』

拳二「お前ぇ、何か急いでるんだろ。俺ぁがアレをどーにかしてやっから後ろで見てな」

そういうと拳二はおれの前に一歩踏み出る。
結局、おれの拳は脆い。でも、おれにはこれしかないからな……おれも並んで前に出た。

悠「急いではいるけど……尻尾まるめて観戦してるつもりはない。」

おれにあるのはこの二つの拳だけだから、この拳を戦うしか道は残されてないのだから。

拳二「かかかっ、言っとくがこいつには十字架もニンニクも効かねーぞ。ゲンコツで叩き返してやれや悠!!地獄にな♪」

悠「応ッ!」

死の面『ケヒッ、ケヒッ』

踏みしめた足が、そのまま奈落へと落ちていきそうな接地感のなさ。呼吸(いき)が苦しい。

悠「何の音だ…ありゃ?」

拳二「笑い声じゃねーか?多分だけどな」

死の面『カカッ!!』

鬼道という言葉がある。

死中に生を得るために自らあえて非情な鬼と化し活路を見出す。

それは千年以上も前から培われていた「武」の思想とは対極を成す。忌むべき考え方。義も仁も哲理も捨てただ戦う鬼。

だが、もし……そうせねば倒せない相手と巡り合ってしまったら?全てを擲ってでも勝たねばならない相手が敵だとしたら?

おれは、鬼になれるだろうか…。

拳二「来たぞ!」

死の面は回転しながらおれと拳二の引き裂こうと間に飛び込んでくる。

っが……おれはあえて避けない。前へ、前へと踏み込む。極限まで圧縮された殺意の領域へと身体が入り込むと全てがスローになった感覚。

奴の触れるだけで全てを引き裂きそうな鋭利なブレード状の爪に自分の姿が映っている……。

魔物が口を閉じる如く、挟み切り裂こうと刃が迫ってくる。

自分でもわかる。おれは死地に踏みこんでも焦っていない。落ちついている。身体が軽い。左拳振り払うように刃の腹を、そして右の手では奴の手首を押さえ、肘で刃の腹を打つ。硬質なブレードが砕け散っていく。

動きは止めない。掴んだ奴の手首を引き振り上げた左拳を肘からゆっくりと伸ばし奴の胸にソッと当てる。

ひと張りの糸のように伸びた腕、一呼吸つけて地面を踏みぬき足から膝、膝から腰、腰から肩へ、肩から肘へ、肘から手首、手首から拳へ昇竜の如く駆け抜けた剄撃が死の面の胸を貫いた。

破裂する衝撃力で奴は吹き飛んでいく。ただ、反動に堪えきれずにわが身も後ろに跳んだ。

拳二「しゃぁーっ!良くやった!何かわかんねーけど、それでいいぞ悠!」

悠「はぁはぁ……。」
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