ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】
ー大江戸学園:ツリー直通エレベーター前広場ー
十兵衛「吉音、これから決戦に迎えお前に会わせておく者がいる。」
吉音「え、あたしに……?」
十兵衛「想!出てくるがいい」
吉音「えっ!想いちゃんがっ!?」
そこには師匠の言葉通り、逢岡さんの姿があった。
想「吉音……さん」
駆け寄る吉音に逢岡さんは細い声で応えた。
詠美「逢岡さん、あたな一体どうしてここに?」
十兵衛「想は光姫の指示を受けて大御所こと飛鳥鼎の陰謀を追っていたのだ。」
想「……」
頷く逢岡さん。
十兵衛「ところが無謀にもひとりで突っこもうとしたのでつまみ出した。」
想「すみません……」
吉音「すごく、すごく、心配したんだよ?そんな大事なお仕事をしてるんなら教えてくれてもよかったのに」
親友との再会に吉音は少し潤んだ声をしていた。
想「ごめんなさい……吉音さん」
逢岡さんの声もかすかに震えているように聞こえた。
悠「……」
想「私が吉音さんの前から姿を消したのは大御所から脅迫を受けたためでした。吉音さんに私の秘密をばらすと」
悠「秘密?」
想「私は長い間……吉音さんに隠していたことがありました。ご両親が亡くなった火事の原因は私だと……」
吉音「えっ……違うよ、あの火事はエヴァが!」
想「ええ……先日、光姫さんから伺いました。でも……それまでずっとあなたに嘘をついていたことには変わりありません」
吉音「そんなこと……」
想「当時、私の祖母は吉音さんの屋敷で料理長として務めていました。そして料理好きだった私は厨房に何度か連れて行ってもらいました。その日も私は祖母から料理を教えてもらっていました。ですがたまたま厨房に私がひとりになるときがあったのです。私は祖母を呼ぼうと料理を火にかけたままその場を離れてしまいました。そのわずかな間に厨房では大きな爆発が起こりました。私はすぐに祖母や料理人たちに連れ出されて無事でしたが、火災の原因は自分のせいだと思いこみました。当時の私は自分が原因だと大人たちに訴えましたが、大人たちは取り合いませんでした。皆が幼い私を守ろうとしたのです。」
十兵衛「もちろんだが爆発の原因は想ではない。エヴァが前もって仕掛けた発火装置だ。その後の検証によれば想がかけていた鍋は噴き零れて火が消えていたようだ」
想「けれど私の心にはずっとその事についての罪悪感が残りました。その後、祖母と徳河家の縁も有り大江戸学園に入学することになりました、そこで学園に入学して吉音さんと再会したのです。元々面識はないも同然。吉音さんが偽名を使っていたこともあり、しばらくの間は互いに気づかないままお付き合いしていました。吉音さんは私にとって大切な友人になりました。しかし、ひょんなことから吉音さんの正体を知ってしまいました。自責の念が私を苦しめました。正直に謝りたい、でも友情を失いたくないため言えない……毎日がその繰り返し、私が何があっても吉音さんにつくそうと思いました。せめてもの罪滅ぼし……いえ、それは私の思い込みだったろうと思います。」
吉音「想ちゃん……」
想「ですが……あるとき徳河家の手の者を名乗る間者が接触してきました。間者は10年前の火災に私が関わっていることを知っていました。そして吉音さんにばらされたくなければこちらの指示に従えと脅迫してきました。指示の内容は内密に吉音さんの動向を報告すること。最初、間者は秀忠様の手の者であると名乗り、家を出た吉音さんを見守るための報告だといっていました。そしてこちらの指示に従うのなら出世コースに乗せてやるともいってきました。もちろん固辞しましたが、吉音さんを守りたいなら地位は必要だといわれ渋々承諾しました。吉音さんを失いたくないために吉音さんを裏切らなくてはならないジレンマの毎日でした。最初は秀忠様の命だと信じて、これも吉音さんのためになると思い、割り切ろうとしていました。ですが……吉音さんが名声を得るようになると、指令は明らかに悪意のあるものへと変化していきました。そこにいってようやく、指示を出しているのが秀忠様ではないと悟りましたが……だからといって私にはどうすることもできず、ただただ脅しに屈するだけでした。吉音さんを裏切り続けたこと……許してもらえるとは思いません。ただひと言、あなたに謝りたかった。もう……これでお会いすることありません、さようなら」
そういって逢岡さんは駈け出そうとした。
吉音「待ってよ、想ちゃん!」
吉音がその裾を掴んだ。
想「……!」
吉音「嫌だよ、そんなの!もうどこにも行っちゃやだよ!」
想「吉音さん……」
吉音「あたしこそ……想ちゃんがそんなに悩んでいること気づかなくて……ごめんなさい」
想「吉音さん……あなたがどうして……謝るんですか」
吉音「もしも……火事の原因が想ちゃんだったとしても……あたしは想ちゃんを恨んだりしないよ。ずっと……ずっと……苦しんでたんでしょう?」
想「……」
悠「ああ。怒りはうそこにいるエヴァにぶつけるべきだ」
詠美「そうよ。吉音さんには親友のあなたの力が必要だわ。」
想「小鳥遊くん、徳河さん……」
吉音「お願いします……これからも……あたしの親友でいてください」
想「ああ……吉音さん。ありがとう……ありがとう……」
逢岡さんは嗚咽し、何度も何度も頷いた。
吉音「想ちゃん!」
吉音は逢岡さんを抱き締めた。二人とも泣いていた。
伊万里「うっうぅ……ううぅ……」
そして、何故か伊万里も泣いていた。
雷太郎「お、おいおい……」
風太郎「号泣してんじゃん。」
寅「いや、意味が分かんねぇ。確かに泣ける話だけど……これは分かんねぇ」
久秀「ホント、気持ち悪い」
魁人「すいません。ほんと申し訳ありません」
悠「言いたかないけど……いい加減しろ。」
十兵衛「吉音、これから決戦に迎えお前に会わせておく者がいる。」
吉音「え、あたしに……?」
十兵衛「想!出てくるがいい」
吉音「えっ!想いちゃんがっ!?」
そこには師匠の言葉通り、逢岡さんの姿があった。
想「吉音……さん」
駆け寄る吉音に逢岡さんは細い声で応えた。
詠美「逢岡さん、あたな一体どうしてここに?」
十兵衛「想は光姫の指示を受けて大御所こと飛鳥鼎の陰謀を追っていたのだ。」
想「……」
頷く逢岡さん。
十兵衛「ところが無謀にもひとりで突っこもうとしたのでつまみ出した。」
想「すみません……」
吉音「すごく、すごく、心配したんだよ?そんな大事なお仕事をしてるんなら教えてくれてもよかったのに」
親友との再会に吉音は少し潤んだ声をしていた。
想「ごめんなさい……吉音さん」
逢岡さんの声もかすかに震えているように聞こえた。
悠「……」
想「私が吉音さんの前から姿を消したのは大御所から脅迫を受けたためでした。吉音さんに私の秘密をばらすと」
悠「秘密?」
想「私は長い間……吉音さんに隠していたことがありました。ご両親が亡くなった火事の原因は私だと……」
吉音「えっ……違うよ、あの火事はエヴァが!」
想「ええ……先日、光姫さんから伺いました。でも……それまでずっとあなたに嘘をついていたことには変わりありません」
吉音「そんなこと……」
想「当時、私の祖母は吉音さんの屋敷で料理長として務めていました。そして料理好きだった私は厨房に何度か連れて行ってもらいました。その日も私は祖母から料理を教えてもらっていました。ですがたまたま厨房に私がひとりになるときがあったのです。私は祖母を呼ぼうと料理を火にかけたままその場を離れてしまいました。そのわずかな間に厨房では大きな爆発が起こりました。私はすぐに祖母や料理人たちに連れ出されて無事でしたが、火災の原因は自分のせいだと思いこみました。当時の私は自分が原因だと大人たちに訴えましたが、大人たちは取り合いませんでした。皆が幼い私を守ろうとしたのです。」
十兵衛「もちろんだが爆発の原因は想ではない。エヴァが前もって仕掛けた発火装置だ。その後の検証によれば想がかけていた鍋は噴き零れて火が消えていたようだ」
想「けれど私の心にはずっとその事についての罪悪感が残りました。その後、祖母と徳河家の縁も有り大江戸学園に入学することになりました、そこで学園に入学して吉音さんと再会したのです。元々面識はないも同然。吉音さんが偽名を使っていたこともあり、しばらくの間は互いに気づかないままお付き合いしていました。吉音さんは私にとって大切な友人になりました。しかし、ひょんなことから吉音さんの正体を知ってしまいました。自責の念が私を苦しめました。正直に謝りたい、でも友情を失いたくないため言えない……毎日がその繰り返し、私が何があっても吉音さんにつくそうと思いました。せめてもの罪滅ぼし……いえ、それは私の思い込みだったろうと思います。」
吉音「想ちゃん……」
想「ですが……あるとき徳河家の手の者を名乗る間者が接触してきました。間者は10年前の火災に私が関わっていることを知っていました。そして吉音さんにばらされたくなければこちらの指示に従えと脅迫してきました。指示の内容は内密に吉音さんの動向を報告すること。最初、間者は秀忠様の手の者であると名乗り、家を出た吉音さんを見守るための報告だといっていました。そしてこちらの指示に従うのなら出世コースに乗せてやるともいってきました。もちろん固辞しましたが、吉音さんを守りたいなら地位は必要だといわれ渋々承諾しました。吉音さんを失いたくないために吉音さんを裏切らなくてはならないジレンマの毎日でした。最初は秀忠様の命だと信じて、これも吉音さんのためになると思い、割り切ろうとしていました。ですが……吉音さんが名声を得るようになると、指令は明らかに悪意のあるものへと変化していきました。そこにいってようやく、指示を出しているのが秀忠様ではないと悟りましたが……だからといって私にはどうすることもできず、ただただ脅しに屈するだけでした。吉音さんを裏切り続けたこと……許してもらえるとは思いません。ただひと言、あなたに謝りたかった。もう……これでお会いすることありません、さようなら」
そういって逢岡さんは駈け出そうとした。
吉音「待ってよ、想ちゃん!」
吉音がその裾を掴んだ。
想「……!」
吉音「嫌だよ、そんなの!もうどこにも行っちゃやだよ!」
想「吉音さん……」
吉音「あたしこそ……想ちゃんがそんなに悩んでいること気づかなくて……ごめんなさい」
想「吉音さん……あなたがどうして……謝るんですか」
吉音「もしも……火事の原因が想ちゃんだったとしても……あたしは想ちゃんを恨んだりしないよ。ずっと……ずっと……苦しんでたんでしょう?」
想「……」
悠「ああ。怒りはうそこにいるエヴァにぶつけるべきだ」
詠美「そうよ。吉音さんには親友のあなたの力が必要だわ。」
想「小鳥遊くん、徳河さん……」
吉音「お願いします……これからも……あたしの親友でいてください」
想「ああ……吉音さん。ありがとう……ありがとう……」
逢岡さんは嗚咽し、何度も何度も頷いた。
吉音「想ちゃん!」
吉音は逢岡さんを抱き締めた。二人とも泣いていた。
伊万里「うっうぅ……ううぅ……」
そして、何故か伊万里も泣いていた。
雷太郎「お、おいおい……」
風太郎「号泣してんじゃん。」
寅「いや、意味が分かんねぇ。確かに泣ける話だけど……これは分かんねぇ」
久秀「ホント、気持ち悪い」
魁人「すいません。ほんと申し訳ありません」
悠「言いたかないけど……いい加減しろ。」