ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:船着き場ー

その頃。港でも……

越後屋「ほらほら、並んで並んで。そないに押したら、船に乗る前に海へ落ちてしまいますぇ?」

船着き場には大勢の生徒たちが並んでいる。

列の横を移動しながら越後屋が声をあげている。

はじめ「旦那。この船はこれでいっぱいだよ」

船の浅橋で船員と話していたはじめが振り返り、越後屋へと声をかける。

越後屋「そしたら出してもろうて」

はじめ「コク」

はじめはうなずき、船長に声をかける。すると避難民を満載した船はゆっくりと埠頭を離れていく。

越後屋「はじめ。すぐに次の船に入るように言うて」

はじめ「分かった」

指示を受けたはじめのほうも波止場を走っていく。

越後屋「焦らんでも船はまだ何隻もありますよって。いった船もすぐ戻ってくるし、焦らんでも大丈夫やし」

別の船がゆっくりと船着き場に入ってくるのを見ると、越後屋は再び列の誘導を始めた。

問屋「急に船を貸せとか言いだすもんだから何を始めるのかと思ったが空いた商戦を使って近くの島までのピストン運送。みんなが不安に駆られている今なら誰だって飛び乗るってもんだ。この一大事にも商売を忘れないなんて、さすが越後屋さんだ」

ぱたぱたと忙しく働く越後屋を見て、仲間の商人が感心した顔をする。

越後屋「は?これは商売やないよ。一円もお金は取ってまへん」

問屋「え?」

商人はきょとんとした顔をした。

越後屋「正直ウチは逃げる必要なんかあらへんとおもてるけど。でも不安で逃げたい、いう人かておらはるやろ。それやったらうちら商人のあいとる船で島まで送ってあげたら、喜びはるやろなって思うただけや」

問屋「さっきまであんたがこんな慈善事業をするなんて信じられなかったが、越後屋さん、あんた変わったなぁ。いやぁ、感心感心。本当見なおした」

越後屋「ふふん、そうですやろか?」

問屋「それじゃ、仕事に戻るかな」

控え目な微笑みを浮かべる越後屋。

越後屋「(あほか。商売に決まってるやないの。こういうときにつけたイメージは目先の小銭には替えられん。まぁ、島が爆発して学園がのおなったらパーですけどな。そのためにも……頼みますよ、小鳥遊さんがた)」

そう呟く越後屋の視線の先には、やはりツリーがそびえる。



ー大江戸学園:日本橋付近ー

朱金「おらあああああっっ!!」

低級剣魂『キュイイーン!』

朱金の豪快な蹴りが低級剣魂数体を一気に吹き飛ばす。

真留「行け!イチ、ロク、サン!」

朱金「くっそぉ、キリがねぇ!真留、他の同心屋岡っ引きはどうした?」

真留「別の防衛線です!他も手一杯です」

朱金「ちっ。じゃここはお前とオレの二人っきりだな」

真留「そういうことです」

朱金「ハナサカ!桜吹雪全開だ!」

ハナサカ『ワオーン!!』

真留「遠山様!いけません、それ以上パワーを上げたら身体が持ちません!」

朱金「知ったことか。ここで温存してどうする!ぶっこわれるならぶっこわれりゃいい。この遠山桜、最後は派手に散らしてやるぜ!」

真留「遠山様……。分かりました、私もお供します!」

朱金「おおよ!」

真留「ロク、ナナ!しまった、抜かれた!?」

低級剣魂『キュイイーン!』

朱金「いかん!真留っ!!」

シンゴ『グオオオーーンっ!』

低級剣魂『ギュオ……』

黒くしなやかな体躯が飛び出し、低級剣魂数匹を引き千切った。

低級剣魂『キュイ!?』

朱金「シンゴっ!?」

シンゴ『グオゥ』

朱金「てことは……」

平良「どうした、朱金。だらしないぞ」

朱金「た、平良……てめぇ、今更何しにきやがった」

平良「現在を緊急事態と判断。火盗改は私長谷河平良の長官責任をもって、治安任務を放棄、南北奉行所に協力し避難誘導を行う」

真留「長谷河さまっ!」

平良「よく頑張ったな真留」

真留「は、はい、ありがとうございますっ!」

朱金「ああ、だったらよそ行け、よそ。戦力ならここは間にあってるぜ。なぁ、真留?」

真留「え、え……えっと」

平良「防衛線でここが一番弱いと聞いてきたんだがなぁ」

朱金「うるせえ!見物したいんなら黙って見てろ。こっからが面白くなるところだぜ!」

平良「ふふ。そういわれても、喧嘩は見るよりもやるほうが好きでな」

すらりと剣を抜き放つ平良。

朱金「ふん、勝手にしやがれ。邪魔だけはすんじゃねぇぞ」

平良「ん、しばらく休んでたっていいんだぞ?」

朱金「あほか。手柄を横取りするんじゃねぇよ。オレはお前のそういうとこが大嫌いなんだよ。」

平良「ふふん。来たぞ。」

朱金「いわれなくても分かってらぁ!」
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