ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸城:廊下ー

光姫「そして、詠美。お主のお父上が吉音を引き取り、宗家を護ってくれた。それによってエヴァの思惑通りに徳河にお家騒動が起こらずに済んだのじゃ。ただそのことがお主とのお父上、そして吉音との間に溝を作ってしまった。」

詠美「すみません……」

光姫「全て過ぎたことじゃ。親の愛情を求めるのは子として当たり前のこと。自分に無いものを持った者に憧れ、時に嫉妬することもまた人間らしい。それはお互いさまじゃ。のお、吉音?」

吉音「……」

吉音は声を出さずに頷いた。

光姫「ひとは誤解し合う生物じゃ。そして誤解をひとつずつ解いてゆくことでしか信じあえん。刃を合わせて素直な気持ちをぶつけあって、お互いに距離を縮められたはずじゃ」

詠美「はい……」

久秀「何かが少し違っていたら……狙われていたのは悠の方だったかもね」

悠「今の話を聞く限り否定は出来ないな。」

光姫「恐ろしきは僅かな人の心の隙間も見逃さぬあの女じゃ。かけた火が存外燃え広がらず攻めあぐねていたエヴァは、将来の将軍候補を……つまり詠美、お主を籠絡する計画に切り替えおったのじゃ。あの女は先に教師として学園に入り込んだ。そして詠美が入学し将軍職に就けるようになるまで、周到な準備を行っておったのじゃ。計画の邪魔になる者を次々蹴落として教員内の地位を築く、さらに裏でも「大御所」と称して瑞野を取り込み、支配力を持った」

銀次「なんとも気の長い話だぜ」

光姫「国をひとつ手に入れられるのじゃ。けして時間のかけ過ぎということはあるまい。その後も行った工作はキリがない。豪俊や雪那の騒動も全てあの女の差し金。もちろん成功させるつもりはない。学園に混乱を起こさせるのが目的じゃ。自らも学園の資金を不正に流用して「キュウビ」を開発させた。吉彦がそれに気づくと、横領の罪を被せて幽閉してしまいおったのじゃ」

吉音「……許せない」

絞り出すように吉音は声を出した。その細い肩は怒りに震えていた。

悠「吉音……」

吉音「父様と母様の仇は必ずとる」

詠美「吉音さん、私も協力する」

光姫「こちらも手をこまねいてエヴァの暴虐を見ていたわけではない。一気に反撃をかける算段は。吉音、詠美。お主たちが力を合わせた今がその時じゃ」

「「はい!」」

銀次「とりあえず他の連中と合流だ。急ぐぜ」

おれたちは頷いて、歩みを速めた。

光姫「悠、お主もじゃぞ」

悠「分かっています。間接的であれ……ジジイ、いや、小鳥遊が関わっていた。おれが身代わりになっていたらとかは言わない。けど、許しもしない……ところで光姫さん、師匠のファーストネームっていうのは?」

光姫「それはわしの口から伝えることは出来ぬ。知りたくば本人から聞くが良い。お主がやつのメガネにかなうのであれば聞くことができよう」

悠「……聞けそうにないなぁ」

光姫「もう少し、自信を持たんか……。」



ー大江戸城:城門前ー

詠美「何、これは?」

城門前をふさぐように巨大な人型と無数の木偶が横たわっていた。

悠「これは輝の作った大魔神と……木偶はよく分かんない」

朱金「おーい、悠ー、吉音ー!」

吉音「あ、金ちゃんだ!やっつけたんだね、大魔神!」

朱金「おう。苦戦はしたけどみんなの協力でなんとかな……」

真留「比良賀さんの身柄も確保しました」

見れば輝は縛られて大魔神に縛り付けられている。

悠「そういえば、天は?」

魁人「ハズレです」

悠「ハズレ?」

伊万里「……」

伊万里が不機嫌そうな顔で何かをこちらに蹴り飛ばしてきた。見れば例の白フード……を被った木偶人形。

魁人「輝……さん、でしたっけ?彼女に聞いたところ。いつのまに木偶だったのかは不明らしいです。そもそも天かどうかも不明。ただ、大魔神やこの木偶製作のために手伝いや物資の搬入などに携わっていただけとか……」

悠「まさにハズレか…」

伊万里「なめやがってぇぇぇぇ!!!!」

わっかり安くブチ切れて伊万里は白フード木偶を踏み潰す。控え目にいって怖い。
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