ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸城:廊下ー

悠「え、ちょ……え?」

吉音「たかなしコンチェル?」

詠美「日本で最大の財閥でしょ。……あれ、だけど小鳥遊って」

久秀「まさかあなた達……悠が小鳥遊コンチェルの社長、小鳥遊兜馬の息子って知らなかったの?」

吉音「ええぇっ!悠ってお金持なの!?」

詠美「まさか……そんな…」

悠「っか……久秀、お前は知ってたのか。光姫さんも…」

久秀「当たり前でしょ」

光姫「当初はわしも知らんかったんじゃがな。小鳥遊という苗字と学園にすんなり入れた理由が気になっての。わりと早いうちが知っておった。」

悠「マジかよ……っか、それよりも何もジジイとオヤジがこんな形でここと関わっていたのが驚きだよ……。いや、驚き過ぎてぎやくに落ちついちゃってる自分が居る…。」

光姫「色々混乱すると思って黙っておいたんじゃ。それで話を戻すが野望に狂ったひとりの女がいともたやすく破りおった。そして多くの人間の……吉音、特にお前の人生を変えてしまった」

吉音「え……?」

光姫「吉音、お前の両親を殺したのは……エヴァじゃ」

吉音「!?」

十年前、徳河宗主光貞の屋敷で火災が発生し、光貞とその妻、家政婦ひとり死亡する。

三人の死体は書斎で発見され、三人とも死因は焼死。また出火は厨房からとされた。

厨房での火の不始末による火災。警察発表ではそのように伝えられていた。

しかしその真相にはオランダの関与する諜報活動が関係していた。

オランダの諜報部員は極秘裏に屋敷にスパイを送りこみ、徳河宗家の情報収集を行っていた。

そして任務を受けて潜入しており、火災時に焼死した家政婦こそエヴァ・ヨーステンだった。

オランダ政府はすぐに作戦の失敗を把握したものの、スパイ工作が露見するのを恐れ、事実を隠ぺいした。

エヴァと光貞の遺体が書斎で揃って発見されたことから、エヴァが諜報活動の現場を光貞に抑えられ、光貞夫妻を道連れに焼身自殺を行ったのではという推測も諜報部内にはあった。

理由はどうあれオランダ政府にとっては火災により諜報活動の証拠が失われたことは幸いであった。

オランダ諜報部の記録にはエヴァの脂肪が記された。

詠美「ですが、エヴァは現に……」

光姫「もちろんじゃ。エヴァは死んでなどおらん。死んだ家政婦は本物の飛鳥鼎じゃ。」

詠美「そんな……」

飛鳥鼎は在学中から成績優秀で卒業後はオランダに留学、期間の終了とともに大江戸学園の教諭として招集された。

彼女は赴任の挨拶のために学園理事である光貞の屋敷を訪れることになっていた。

事前にそれを知ったエヴァは計画の始動の好機と行動を起こす。エヴァは手始めに帰国したばかりの飛鳥鼎を拉致した。

事件当日。光貞の書斎を尋ねたエヴァはその場で光貞夫妻を昏倒させる。さらに家政婦の制服を着せた鼎を書斎へと投げ込むと、屋敷に放火した。

炎に包まれる屋敷を悠々と後にしたエヴァは、面会予定の時刻に「飛鳥鼎」として再び屋敷へと戻ってきた。

かくしてエヴァ・ヨーステンは飛鳥鼎として学園に入り込み、ここに彼女の遠大な計画がスタートした。

悠「一体なんだって吉音の両親を……」

銀次「徳河家にお家騒動を起こすためさ」

悠「お家騒動?」

銀次「ああ。宗家を失えば必ずお家騒動が起こる。その隙を突いて中核へと入り込む算段だった。オランダのスパイとして徳河家を調べるうちに気づいたんだろうな。徳河さえ操ることができれば学園は手に入る、とな」

光姫「ただし全てがあやつの予定通りに上手くいったわけではない。吉音。お前が生き残ってくれた」

吉音「…………」

吉音は俯いてその表情をうかがい知ることは出来なかった。
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