ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:執行部室ー

詠美「そんな……私のしてきたことは、一体……」

詠美の身体からがっくりと力が抜ける。

宿敵と定めた相手を憎みきれず。

自分の取った行動が正しいと主張しきれず。

自分の存在を示したかった相手に対しても、逆効果になっていると悟って。

もう詠美の戦意を支えるものは、何ひとつ無くなってしまっていた。

吉音「ね、もうやめようよ。こんなこと続けても誰にもいいことないよ」

詠美「でも、ここまで進めてきたことを、やめるわけには……」

吉音「やめられないからってだけで続けるの?詠美ちゃんはそんなによわかったの?」

詠美「くっ…………はぁ、あなたに説教されているようじゃ、私も大きな口を叩けないわね。」

吉音「そ、それじゃ……」

詠美「わかったわ。とりあえず方針を変えるよう呼び掛けてみる。自分で始めたことは自分で始末しなければね……」

吉音「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」

詠美「きゃ!?どっ、どうしてあなたが泣くのよ!」

吉音「だってっ、あ、あたしも詠美ちゃんにひどいこと。ごめんね、嫌いにならないでっ……うっ、うぐぅ」

詠美「嫌いにって、あなたが私に気づかせてくれたんでしょう?ここは感謝するところじゃない」

吉音「でも、でも、詠美ちゃんあんなに頑張ってたのに……」

詠美「なによ……じゃあやめるのをやめた方がいいの?このまま強引にいいなりにさせた方がいい?」

吉音「そんなっ、こと、ふぐぅ……な、ないけどっ……ふぅぅぅ」

詠美「どっちが子供なのよ……まったく」

詠美が吉音に歩み寄り、文字通り子供をあやすように頭を撫でてやる。

泣きじゃくる吉音を見る徳河さんの顔には、少し困ったような柔らかい微笑みが生まれていた。

なんというか……身も蓋も無い表現をすると、これは単なる姉妹同士のケンカでしかなかった。

本人もそれは分かっていたようだけど、まぁそれに関係なく、賛同していた人も数多くいたわけで。

詠美ひとりだけを責めるのは忍びないし、とりあえずはふたりの距離が縮まったことを喜ぶとするかな。

詠美「悠には……いいえ、学園の全員に、つまらない茶番につきあわせてしまったようね」

悠「おれは喧嘩の見届け役だからそれでいい。っか、それよりは容易に混乱する側に問題があるだろ。みんな自分のことを考えるいい機会になったんじゃない?」

詠美「そういってもらえれば、少しは心も軽くなるわね。」

久秀「はぁぁ」

悠「はいねそこ。これ見よがしに大きくため息つかない」

どうも詠美の身体のことは、昔から吉音を含む徳河家の皆の知るところだったらしい。

それも原因になって皆が詠美に遠慮するような形になり、孤立感を与えることになってしまった。

そう考えると、情の部分でほだされてしまいそうになるが……。

吉音「これからなにかしようとするときは、遠慮なくあたしにも相談してね!」

詠美「もうわかったから。とりあえず今は、この騒動を治めないと。」

悠「そうだな。酉居なんかは最後まで従おうとしないかもしれないけど」

久秀「そうか……そういう裏切りも有りね。いきなり久秀が酉居側に着くっていう」

悠「やめんかい!」

久秀「冗談よ。酉居の下には着く気はないわ」

詠美「ああ、その酉居だけど……」

詠美の言葉の途中で、部屋の入り口の方から乱暴な物音が聞えた。
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