ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】
ー大江戸城:生徒執行部室ー
そしておれ達は、それからも一度も襲われることなく城内進み……ついに天守閣、執行部室にまでたどり着いた。
詠美「ようこそ。待っていたわ。」
吉音「詠美ちゃん……ひとり、なの?」
詠美「ええ。見ての通りね。」
執行部室では、徳河さんひとりだけが悠然と佇んでいた。他に居るはずの幹部の姿は見えない。
どういうことだ……本当に執行部員たちはどこへ行ったんだ?
久秀「随分とさびしくなってるわねぇ。忠実な家臣たちは?」
久秀が分かりやすく挑発する。
詠美「他のみんなは遠ざけたわ。この暴動が周囲へ飛び火しないよう、城周辺の警備に出動してもらっているの。」
悠「……そうか。詠美はその道を選んでくれたんだな。」
詠美「……どの道かは知らないけど。決着をつけるためよ」
今や反乱軍の大将となった吉音を前にしても、徳河さんの表情には微塵の揺らぎも出ない。
覚悟を決めた、というか憑き物が落ち、悟りきったような様相だ。
静謐な空気の中、かすかに場外の喧噪が響いてくる。
今や執行部の栄光も風前の灯火なのに、なぜこれほどに落ちついて居られるんだろう。
久秀「あの女がやる気満々な原因の一端はアンタでしょ」
悠「……何のことやら。っか、心の声を聞くな!」
詠美「これまではいつも煩わしい周囲の目があった。けれど今、ここには、私達しかいない。そうでなくては本当の勝負はできないでしょう?」
吉音「詠美ちゃん。あたしは詠美ちゃんと戦いに来たんじゃないよ、お話ししに来たんだよ」
詠美「話をすることと、戦うこと。どこが違うというの?」
吉音「それはっ……でもっ……言い負かしたいんじゃなくて、わかってほしくて……」
詠美「意見を異する相手を納得させるには、それ以上に強い議論が必要ということよ」
吉音「どうしていつもそんな風に言うの?勝ち負けじゃなくって、いいところを探していこうって……!」
詠美「私が勝ち負けに拘っているからよ」
吉音「どうしてっ!」
詠美「決して、あなたのような生き方を、私のような境遇を、認めるわけにはいかないから」
吉音「わ……わかんないよ。詠美ちゃんがなんでそんなこと言うのか分かんない」
詠美「わかろうとしたこともないでしょ?他人に耳を貸したこともないあなたが」
吉音「詠美ちゃんはなんにも話してくれないのに、わかるはずない!」
詠美「いつもいつも周りを見ずに、自分だけが正しいと思っている……そんな考えはもう通用しないのよ。どうしてもそれを通したければ……力尽くで通すしかないわ」
スラリ、と徳河さんの白刃が鞘の中から露わになる。
徳河さんの表情は澄んだ水面のように整っている。が、抜き身の刀からは憤怒の闘気が立ち上がっているようにすら見えてしまう。
途端に周囲の気温が下がったかのように、空気が張り詰めた。
吉音「もし、この試合に勝ったらお話してくれるってこと?」
詠美「……御前試合も結局水入りだったし、その決着を付けるという意味でも、悪くはないでしょう?」
吉音「……わかった。詠美ちゃんがそういうなら、そうする」
吉音もゆっくりと刀を抜く。
悠「……」
吉音「悠とひーちゃんは、手を出さないでね。ごめん。みんなには関係ない、ただの喧嘩なんだってことは分かってるんだけども、でも……」
悠「馬鹿。関係なく何かねーだろ。私的な喧嘩だろうと学園を巻き込んだ喧嘩だろうと……この喧嘩はおれが立ちあってやる。誰にも邪魔させねぇし、何も言わせねぇ。全力でぶつかりあえ、吉音。それに詠美もな」
非効率と言えばそうかもしれない。だけど、おれはその非効率が大好きだ。
吉音「……いくよ、詠美ちゃん」
詠美「簡単にやれると思わないことね。」
そしておれ達は、それからも一度も襲われることなく城内進み……ついに天守閣、執行部室にまでたどり着いた。
詠美「ようこそ。待っていたわ。」
吉音「詠美ちゃん……ひとり、なの?」
詠美「ええ。見ての通りね。」
執行部室では、徳河さんひとりだけが悠然と佇んでいた。他に居るはずの幹部の姿は見えない。
どういうことだ……本当に執行部員たちはどこへ行ったんだ?
久秀「随分とさびしくなってるわねぇ。忠実な家臣たちは?」
久秀が分かりやすく挑発する。
詠美「他のみんなは遠ざけたわ。この暴動が周囲へ飛び火しないよう、城周辺の警備に出動してもらっているの。」
悠「……そうか。詠美はその道を選んでくれたんだな。」
詠美「……どの道かは知らないけど。決着をつけるためよ」
今や反乱軍の大将となった吉音を前にしても、徳河さんの表情には微塵の揺らぎも出ない。
覚悟を決めた、というか憑き物が落ち、悟りきったような様相だ。
静謐な空気の中、かすかに場外の喧噪が響いてくる。
今や執行部の栄光も風前の灯火なのに、なぜこれほどに落ちついて居られるんだろう。
久秀「あの女がやる気満々な原因の一端はアンタでしょ」
悠「……何のことやら。っか、心の声を聞くな!」
詠美「これまではいつも煩わしい周囲の目があった。けれど今、ここには、私達しかいない。そうでなくては本当の勝負はできないでしょう?」
吉音「詠美ちゃん。あたしは詠美ちゃんと戦いに来たんじゃないよ、お話ししに来たんだよ」
詠美「話をすることと、戦うこと。どこが違うというの?」
吉音「それはっ……でもっ……言い負かしたいんじゃなくて、わかってほしくて……」
詠美「意見を異する相手を納得させるには、それ以上に強い議論が必要ということよ」
吉音「どうしていつもそんな風に言うの?勝ち負けじゃなくって、いいところを探していこうって……!」
詠美「私が勝ち負けに拘っているからよ」
吉音「どうしてっ!」
詠美「決して、あなたのような生き方を、私のような境遇を、認めるわけにはいかないから」
吉音「わ……わかんないよ。詠美ちゃんがなんでそんなこと言うのか分かんない」
詠美「わかろうとしたこともないでしょ?他人に耳を貸したこともないあなたが」
吉音「詠美ちゃんはなんにも話してくれないのに、わかるはずない!」
詠美「いつもいつも周りを見ずに、自分だけが正しいと思っている……そんな考えはもう通用しないのよ。どうしてもそれを通したければ……力尽くで通すしかないわ」
スラリ、と徳河さんの白刃が鞘の中から露わになる。
徳河さんの表情は澄んだ水面のように整っている。が、抜き身の刀からは憤怒の闘気が立ち上がっているようにすら見えてしまう。
途端に周囲の気温が下がったかのように、空気が張り詰めた。
吉音「もし、この試合に勝ったらお話してくれるってこと?」
詠美「……御前試合も結局水入りだったし、その決着を付けるという意味でも、悪くはないでしょう?」
吉音「……わかった。詠美ちゃんがそういうなら、そうする」
吉音もゆっくりと刀を抜く。
悠「……」
吉音「悠とひーちゃんは、手を出さないでね。ごめん。みんなには関係ない、ただの喧嘩なんだってことは分かってるんだけども、でも……」
悠「馬鹿。関係なく何かねーだろ。私的な喧嘩だろうと学園を巻き込んだ喧嘩だろうと……この喧嘩はおれが立ちあってやる。誰にも邪魔させねぇし、何も言わせねぇ。全力でぶつかりあえ、吉音。それに詠美もな」
非効率と言えばそうかもしれない。だけど、おれはその非効率が大好きだ。
吉音「……いくよ、詠美ちゃん」
詠美「簡単にやれると思わないことね。」