ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:大江戸城門前ー

悠「……お前は、自分が楽しければそれでいいのか?周りの誰が傷ついても、自分さえ面白ければそれでいいって?」

輝「あはは、それこそ面白いこと聞くねぇ悠ちゃん」

一度言葉を切った輝は心底愉快といった様子で顔をほころばせる。

その笑顔は、今まで一番楽しそうで、一番輝いて、そして、一番意地の悪いものだった。

悠「……」

輝「そんなの、当たり前じゃん!他の人がどうなろうが知ったこっちゃないよ。おいらが楽しけりゃそれでよし!」

それが比良賀輝の根底。徹底的な快楽主義者。

悠「てめぇ」

輝「そんなわけで、この門を通りたかったら、おいらの遊びにちょーっと付き合ってもらうよ」

輝の宣言に、今まで黙って聞いていただけだった吉音が一歩踏み出した。

吉音「……言いたいことはいっぱいあるけど、それは後でいいや」

輝「およ?そうなのかい?」

吉音「うん。今はそれより大事なことがあるからね」

悠「……吉音」

吉音は鞘から刀を引き抜き、その切っ先を真っ直ぐ輝へと向ける。そして絶対の意思で宣言する。

よしね「あたしは詠美ちゃんに会いに来たんだ。もし邪魔をするようなら例えてるでもたたっ斬る!」

……どうやら吉音の心配は必要なかったみたいだな。よし!おれもおれにできることをしよう。

吉音に倣って拳を固める。

悠「輝!ここは通してもらうぞ!」

輝「おぉ~二人ともかっこいい~!」

輝は無邪気に手を叩いている。なんだこの余裕は?

久秀と朱金と真留と佐東さんも含めたら、こっちの戦力は実質五人。輝ひとりでは到底抑えきれるメンツではない。だとしたら、あの白フードか?

輝「悠ちゃんに新ちゃんに久秀さんに金さんに真留ちゃんにサトーさん。あん!動作確認にはちょうどいいかな」

悠「なんの話しだ!」

輝「それは見てのお楽しみ!あ、アンタもあとは好きにしていいからね。」

白フード「……」

輝は一度大きく頭を下げたと思うと、大仰な動作で身体を起こし、芝居がかった口調で口上を述べる。

輝「さぁさぁお立会い、天才発明家比良賀輝世紀の大発明!本邦初公開!前代未聞の大型カラクリ!いでよ!大魔神!」

ドンッ!

悠「な、なんだぁ!?」

突然の轟音とともに地面が揺れる。

視線の先では、今まで固く閉ざされていた城門が内部から押し開かれていた。

吉音「アレって!」

久秀「冗談よね?」

真留「うわぁ~!」

朱金「おいおいマジか?」

その場にいた全員が息を飲んだ。

開かれた門から出てきたのはひとりの武士だった。それも、城門と同じぐらいの背が有る大きな武士。

堅固な甲冑を身に纏い、天に向かって伸びる角が特徴的な兜をかぶっている。

腰に差す刀は、どんなものでも一太刀で叩き潰せると思わせる大きさをしている。

輝「ふっふっふっ!どうだいおいらの大魔神は!」

悠「大魔神って……コレが!?」

輝が自宅の裏庭でコツコツ作っていたカラクリ。まさか立って歩けるなんて……。

久秀「悠。上ばかりじゃなく下も見てみなさい」

悠「した?……げっ!?」

大魔神の迫力にあっけにとられていたが、その足元を見てみると人間大のカラクリ。昨日、ウチの店で魁人たちが解体していた木偶人形が蠢いている。
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