ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:大江戸城門前ー

特に妨害を受けることもなく辿りついた大江戸城の城前。扉は当然の如く固く閉ざされていた。

悠「……妙だな」

吉音「どうしたの悠?」

悠「見張りがひとりも居ない」

城門だけでなく、今しがた通って来た広場にも、幕府の生徒の姿はなかった。

詠美にはおれ達がやってくるって分かってるはずだ。それなのに普通城門を無人にするか?

おれ達を迎え撃つならば、城門前の広場はうってつけの筈なのに……。

越後屋「小鳥遊さん、今は考えこんどう場合やあらへんとちゃうん?」

朱金「見張りがいねぇってんなら楽でいいじゃねぇか。とっとと行こうぜ」

悠「それもそうなんだけど……」

門兵どころか、人っ子ひとり姿が見えないなんてどういうことだ?

どうにも悪い予感がする。

吉音「ほら悠、おいてくよ~」

吉音が先頭に立って城門に向かって歩きはじめる。

「ちょぉぉぉっと待ったぁあぁぁぁぁ!」

悠「っ、なんだ?」

真留「あそこです!」

真留の声につられて城門の二階に視線を向けると、そこにはひとりの女子生徒と白いフードの奴の姿が有った。

腰まで編み込まれた栗色の髪の毛。頭にはゴーグルをつけ、首からカメラをぶら下げている。

白いフードの奴は顔を隠すように深くかぶり、性別の判断もつかない。なにより、学園の生徒特長の制服ではない。

悠「……輝と誰だ?」

輝「やっほー悠ちゃん!元気か~い?」

城門の二階から老らかに手を振る姿は、間違いなく比良賀輝その人だった。

白フード「……」

フードのやつは置物のように微動だにしない。

悠「なにやってんだ?そんなとこで、その白フードは誰だ?」

輝「ちょっとした知り合いだよ。そんなことより、悠ちゃんたちを待ってたんだよ。ょっと用事があってさ」

悠「用事?」

輝「うん。とーっても大事で、とーっても重要で、とーってもお楽しみな用事が……さ」

輝がいつものように明るく微笑むが、なぜかその笑顔に背筋が寒くなる。

愉快そうに笑ってるのはいつもと違わないはずなのに、なんだこの不快感は……。

朱金「おい悠、テルの奴……」

悠「ああ……」

他の皆も輝の態度に違和感を覚えているようで、空気が張り詰めていくのを感じる。

そもそもどうして輝のやつがあんなところにいる?それもこのタイミングで。

だれしもが口を閉ざす中、輝だけ楽しくて仕方がないとでもいうようにはしゃぐ。

輝「ところで、新ちゃん悠ちゃん。おいらからのプレゼント、気に言ってくれたかい?」

吉音「プレゼント?」

悠「なんのことだ?」

輝「あれ、忘れたの?ここ最近の新ちゃん達の活躍、しっかりと瓦版にしてあげたじゃん」

ここ最近の瓦版というと、吉音や小鳥遊堂に対してのいわれない誹謗中傷に、悪意の籠ったでたらめのねつ造記事。

吉音を貶めようと考えてるとしか思えない非道な瓦版。

あの瓦版を作ったのが輝だって!?

吉音は気にしないと言っていたけど、その心がどれぐらい傷ついていたかをおれは知っている。

驚きは当然あった。だけどそれよりもこみ上げてくるのは怒りだ。

悠「どうしてあんな記事!」

輝「ん?頼まれたんだよ。お金いっぱいくれるっていうし、おいらも楽しそうだって思ったから書いただけだよ」

悠「楽しそうって……ふざけるなっ!」

輝「ふざけてないよ。どんなことでも楽しみながらやるのがおいらのモットーさ」

悠「それがふざけてるっていってるんだ!」

輝「そうかい?自分で面白いと思ったことを目いっぱい楽しむ。悪い事なんてなーんにも無いとおもうんだけど?」

悪びれもせず、のらりくらりとした態度を崩さない輝。

なんだこいつ……。

輝がいったい何をいっているのか、おれにはさっぱり理解できない。
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