ｰ大江戸学園:執行部室ｰ

鼎「ととと、徳河さぁんっ!き、聞きましたかっ!?よ、吉音さんが大勢の荒くれ者を引き連れてこちらに向かってるらしいですよぉ!?」

顔色を変えた飛鳥鼎が執行部室に飛び込んできた。

詠美「ええ。先程報告を受けました。」

鼎「そ、それで迎撃の部隊への指示は出したんですよね?」

詠美「いいえ」

鼎「どうしてなの、詠美さん!?吉音さんや謀反した生徒たちをこのままお城の中に入れちゃうつもりなんですか!?大江戸城は学園の象徴ですよ?其処に謀反の生徒が殴り込みなんてことになったら、執行部の威信は一気に地に落ちてしまうんですよ?今すぐ防衛部隊を送って追っ払わなきゃ……」

詠美「いいえ。その必要はありません。ここにはきっと彼女だけでやってくるでしょう。」

鼎「え、何を根拠にそんな?」

詠美「根拠は、徳河吉音の性質です。彼女なら生徒らを煽って騒ぎを起こすようなことはしません。今、彼女にしたがっている生徒たちも大方、勝手に集まってきた者たちでしょう。例え彼らが白に迫ったとしても、おそらく彼女が説得して騒動を回避させます。それに今、彼女の隣には小鳥遊悠がいます。そのことからも現時点で彼らが暴動を起こす可能性は極めて低いと思われます」

鼎「ばかばかしい。人の心なんてなんのデータにもなりませんよ」

詠美「逆です。人の性質こそ他のどんなデータよりも確実で信頼できる。それに……彼女のことは誰よりも私が知っています。……そしておそらく彼女もそう思っているはず」

鼎「そんなの、ただの仲良しゴッコじゃないですかぁ!学園の将来を決める判断をそんな甘い感傷なんかでしちゃうんですか?」

詠美「…………」

鼎「はあ……」

鼎は大袈裟なジェッチャーとともにため息をついた。

詠美「……」

鼎「詠美さん。あなたはもう少し頭のいい人だと思っていましたけど、分かりました。兵への支持は先生が代わりに……」

詠美「無駄です。すでに全ての部隊に対して別の命令を出してあります。現在この城には最小限の兵士しか残っていません」

鼎「ええっ!?一体何を考えているんですか!?大江戸城を吉音さんにあげちゃうつもりなんですか?」

詠美「もちろんそんなつもりはありません。私と彼女のどちらがこの大江戸城の主にふさわしいのか、決着をつけたいだけです」

鼎「決着なんてもうすでについているでしょう!?家柄も実績もあなたは申し分ない。それに引き換え、吉音さんは執行部にも入らずに遊んでいただけじゃないですか?何より、校長である私があなたを承認しているんですよ?あなたはすでに将軍なんです!一体何が気にいらないというんですかぁ!?」

詠美「すみません、先生。あなたに何をいわれようとも私は意思を変えることはありません」

鼎「うむむむ……」

詠美「待ちましょう……今に彼女がここにやってくる」

鼎「もぉ!付き合ってられないです!」

鼎は不機嫌そうに声をあげると執行部室を後にした。

詠美「…………」

詠美は鼎に背を向けて窓の外を眺めていた。




ｰ大江戸城:大御所の間ｰ

鼎「あのアマッ!なんで私のいうことにしたがわないっ!これまで何のためにっ、あたしがっ、手を尽くしてやったと思っているっ!超っ、めんどくせぇ!徳河吉音さえ潰しゃ、カタがつくというのにっ!ゴミ同然の感傷でっ、私の計画をっ、無駄にするつもりかっ!」

悪態をつく鼎の表情や口調は普段の穏やかなものではなく、まるで別人のように刺々しく野卑なものだった。

鼎は派手にわめき散らしながら携帯電話を取り出した。

輝『もしもし～こちら比良賀輝の裏回線で～す♪何すか、大御……』

鼎「今すぐ魔神を出せ」

鼎は通話相手の言葉をさえぎるように、名乗りもせずに話しだす。