ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】
ー大江戸学園:広場ー
越後屋「すごい人気やんか、徳田さん。」
越後屋が耳打ちしてくる。
悠「そうだな」
朱金「これまであいつが損得無しでやってきたことの結果だよ。見てるやつは見てる。世の中捨てたもんじゃねぇってことさ」
越後屋「徳田さんが将軍様になったら新さんまんじゅうでも作ろうかしら」
朱金「こんな損得勘定ばっかり考えてるやつも居るわけだが」
越後屋「そらうちは商人やもん」
悠「だったら、うちに何%か収めてくれよ。徳田新はウチのなんだから」
越後屋「あら、いいはりますやん」
悠「そりゃ、おれも商人ですから」
生徒達は吉音の答えを待っていた。
吉音「…………」
吉音は不安げにこちらを盗み見てきたが、おれは黙っていた。これは吉音自身が答えを出すべき問題だ。
そして吉音が吉音の言葉によって語らなくてはならない。
悠「……」
吉音「あ、あの……ごめんなさい。今すぐには答えが出せません」
拍子抜けの答えにざわつく生徒たち。
悠「……」
吉音「あたしは、みんながおいしいごはんをお腹いっぱい食べられて、みんながにこにこ笑ってる。そんな学園になればいいなって思ってた。詠美ちゃんならしてくれるって信じてた……ううん、今だって本当は信じてる。でも……このままじゃ駄目だってことも分かってて今の学園じゃ誰も笑ってない。泣いてばっかり、怒ってばっかりだ。あたしは詠美ちゃんと話したい。どうしてこんなことになったのか。」
男子生徒A「分かったよ。吉音さん。あんたに任せるよ」
女子生徒A「もう争いはうんざりです。お願いです、穏かな学園に戻してください。」
吉音「ありがとう……」
悠「えー。それでこの行列なんだけど……」
男子生徒B「このまま大勢で城に向かっちゃ執行部を刺激しちまうてんだろ。そのくらい俺たちだって分かってるのさ」
悠「それじゃ……」
男子生徒A「けどさ、このままもうちょっと一緒に行かせてやってくれないか?城までとは言わない。せめて堀の端までで構わねぇんだ」
男子生徒B「これだけの人間が吉音さんを支持してるんだってことを執行部の奴らに見せてやりたいんだよ」
悠「どうする?」
おれは吉音に意見を求める。
吉音「……えっと」
悠「まぁ橋までなら良いんじゃないか?執行部に見せつけてプレッシャーをかけるというのは一理あるしな」
吉音「そっか……分かった。みんなありがとう。それじゃもう少しだけ一緒に」
また生徒たちから歓声があがる。
悠「……」
吉音「だけどひとつ約束して欲しいんだ。何があっても争いは起こさないで」
男子生徒A「でも、吉音さん。執行部のやつらから……」
吉音「それでも駄目。あたしはもう誰にも刀を抜かせたくない。武器を持って争っても何も良くならなかった。五人組のときだって雪那さんのときだって、今だって……お互いに痛い思いばかりして、同じ生徒同士でただ憎しみ合うだけ。そんなのはもういやなんだ。あたしは誰かが誰かを傷つけるために刀を振るう必要のない学園になってほしい。悪い人がいなくなることはないかもしれない。争いだって避けられないかもしれない。だからあたしが変わりに刀を抜きます。あたしが刀を抜くことで誰かが刀を抜かずに済むのなら。それで笑顔の人が増えるなら、泣き顔のひとが減るのなら……あたしが変わりに刀を抜く」
そういって吉音は刀を抜いた。
生徒たちは吉音の言葉にしんとしていた。
そしてしばらくの沈黙の後、さっきよりもずっと大きな歓声と拍手が吉音を包んだ。
朱金「どうだい?」
悠「上出来じゃないかな」
久秀「久秀にはむず痒くて生ぬるいわね。」
おれと朱金はやれやれと久秀を見た。
しかし、剣を抜き、生徒たちの先頭を歩く吉音の背中をおれはとても頼もしく感じていた。
越後屋「すごい人気やんか、徳田さん。」
越後屋が耳打ちしてくる。
悠「そうだな」
朱金「これまであいつが損得無しでやってきたことの結果だよ。見てるやつは見てる。世の中捨てたもんじゃねぇってことさ」
越後屋「徳田さんが将軍様になったら新さんまんじゅうでも作ろうかしら」
朱金「こんな損得勘定ばっかり考えてるやつも居るわけだが」
越後屋「そらうちは商人やもん」
悠「だったら、うちに何%か収めてくれよ。徳田新はウチのなんだから」
越後屋「あら、いいはりますやん」
悠「そりゃ、おれも商人ですから」
生徒達は吉音の答えを待っていた。
吉音「…………」
吉音は不安げにこちらを盗み見てきたが、おれは黙っていた。これは吉音自身が答えを出すべき問題だ。
そして吉音が吉音の言葉によって語らなくてはならない。
悠「……」
吉音「あ、あの……ごめんなさい。今すぐには答えが出せません」
拍子抜けの答えにざわつく生徒たち。
悠「……」
吉音「あたしは、みんながおいしいごはんをお腹いっぱい食べられて、みんながにこにこ笑ってる。そんな学園になればいいなって思ってた。詠美ちゃんならしてくれるって信じてた……ううん、今だって本当は信じてる。でも……このままじゃ駄目だってことも分かってて今の学園じゃ誰も笑ってない。泣いてばっかり、怒ってばっかりだ。あたしは詠美ちゃんと話したい。どうしてこんなことになったのか。」
男子生徒A「分かったよ。吉音さん。あんたに任せるよ」
女子生徒A「もう争いはうんざりです。お願いです、穏かな学園に戻してください。」
吉音「ありがとう……」
悠「えー。それでこの行列なんだけど……」
男子生徒B「このまま大勢で城に向かっちゃ執行部を刺激しちまうてんだろ。そのくらい俺たちだって分かってるのさ」
悠「それじゃ……」
男子生徒A「けどさ、このままもうちょっと一緒に行かせてやってくれないか?城までとは言わない。せめて堀の端までで構わねぇんだ」
男子生徒B「これだけの人間が吉音さんを支持してるんだってことを執行部の奴らに見せてやりたいんだよ」
悠「どうする?」
おれは吉音に意見を求める。
吉音「……えっと」
悠「まぁ橋までなら良いんじゃないか?執行部に見せつけてプレッシャーをかけるというのは一理あるしな」
吉音「そっか……分かった。みんなありがとう。それじゃもう少しだけ一緒に」
また生徒たちから歓声があがる。
悠「……」
吉音「だけどひとつ約束して欲しいんだ。何があっても争いは起こさないで」
男子生徒A「でも、吉音さん。執行部のやつらから……」
吉音「それでも駄目。あたしはもう誰にも刀を抜かせたくない。武器を持って争っても何も良くならなかった。五人組のときだって雪那さんのときだって、今だって……お互いに痛い思いばかりして、同じ生徒同士でただ憎しみ合うだけ。そんなのはもういやなんだ。あたしは誰かが誰かを傷つけるために刀を振るう必要のない学園になってほしい。悪い人がいなくなることはないかもしれない。争いだって避けられないかもしれない。だからあたしが変わりに刀を抜きます。あたしが刀を抜くことで誰かが刀を抜かずに済むのなら。それで笑顔の人が増えるなら、泣き顔のひとが減るのなら……あたしが変わりに刀を抜く」
そういって吉音は刀を抜いた。
生徒たちは吉音の言葉にしんとしていた。
そしてしばらくの沈黙の後、さっきよりもずっと大きな歓声と拍手が吉音を包んだ。
朱金「どうだい?」
悠「上出来じゃないかな」
久秀「久秀にはむず痒くて生ぬるいわね。」
おれと朱金はやれやれと久秀を見た。
しかし、剣を抜き、生徒たちの先頭を歩く吉音の背中をおれはとても頼もしく感じていた。