ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:とある廃屋ー

悠「……詠美がそんな風に考えているってこと、吉音は?」

詠美「さぁ。あの子の考えは分からないわ。私がいくら突き離しても慣れ慣れしく擦り寄ってくるし……」

悠「それじゃあ吉音は、なにもわからずに詠美さんから嫌われたとおもってるんじゃ?」

詠美「そうかもしれないわね」

悠「そんな意地を張らなくても、もう誰もが詠美さんが優秀だって認めてる。そりゃ……吉音に派無責任なところがあるかもしれないけど……だからってあえて冷たい態度を取らなくてもいいんじゃないか?従姉妹で、親友だったんだろ?」

詠美「他人だったら、こんな風には思わなかったでしょうね……。」

僅かに、詠美が気色ばんだ。

悠「……」

詠美「どこか遠くの知らない人だったら、私が徳河の娘でなかったら……今でも同じ関係でいられたかもしれない。でも、何度も繰り返してきたことよ。今更改めて言うことでもないでしょ?」

徳河家としての使命、吉音との確執、おれとここにいるということまで……。

ひとつでも何かが違っていれば、今学園を取り巻いている環境も変わっていただろう。

しかし逆に言えば、いとことして生まれたことで、此処までは運命づけられていたのかもしれない。

悠「……」

詠美「私たちは、近くにいながら一度も喧嘩らしい喧嘩をしたことが無かった。きっと形はどうあれ、私と吉音さんは決着をつけなくてはならなかったのよ。こんな私怨に巻きこんでしまった皆には申し訳なく思うけど……」

徳河さんはそれらすべてを承知の上で、戦いに挑むつもりなんだ。

そして誰もが皆、その決戦に向けて息を高めている。

もしここで、おれが徳河さんをどうにかしたら……責められるのはおれになるかもしれない。

徳河さんのいうように、あえて矛を交え、決着をつけなければならない時もあるのか……。

悠「……」

詠美「悠、あなたにはとても感謝しているわ。吉音さんのことも……今日のことも。でもそれで縛る気は、もうないから。あなたはあなたの自由にして頂戴」

悠「……じゃあ、おれからもひとつ、お願いしてもいいですか?」

詠美「私にできることなら」

悠「もし決戦を終えて、吉音との関係を清算することができたら。そのときはおれとの関係もまた作りなおしていきませんか」

もっと明るい場所を、誰でもない詠美として、見せてあげたい。

そしてその時にはおれが隣にいられるよう、願いたい。

詠美「……そうね。そう出来れば良いと、私も思うわ」

その言葉が本心だと信じて。





ー大江戸学園:とある施設ー

魁人「ここ……ですね」

寅「アンタ、一体いくつ盗聴器をしかけてるんだ」

魁人「盗聴器ではないです。GPS発信機です」

寅「どっちにしろだろ…」

魁人「阿保はチョロチョロと動き回りますからね。首輪がわりにこういうものを用意しておかないと大変なんですよ。」

寅「……」

魁人「さて、どうしましょうか。別段、妙な音はしませんけど」

寅「中にいるならとっとと助けてやれよ。罠にはめられた可能性があるんだろ?」

魁人「そうですけどね。助けるのも癪だなーっと」

寅「ホントに仲悪ぃなぁ…」

ガゴッ、ギギギ…

魁人「おや?」

寅「むっ」

伊万里「やっと出れたぜ……お?姫川と……」

魁人「若寅大将です」

寅「おい」

伊万里「あぁ、お前が若寅大将か」

寅「なんで通じる!!」

魁人「それより何ですかその気持ち悪いの?」

伊万里「わからねぇ。襲ってきた木偶人形だ。コイツだけ原形残ってたからもってきた。」

魁人「なるほど……では、調べますか。」
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