ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:とある廃屋ー

悠「……無理矢理してしまって、すいません」

詠美「それは構わないわ……もともと私から無理に、お願いしたことだったから……でも、想像していたよりもずっと温かくて……満たされる感じが、した……」

それはおれがいうべき言葉。

詠美さんの求めに乗じて、結局は自分の欲情のままに動いてしまったし。

悠「……」

詠美「後悔はしてないわ」

まるでおれの考えを呼んだかのような言葉。

悠「……」

詠美「痛みもさほどではなかっし……き、気持よくもなれたし……はぁ……」

悠「詠美……」

そんなことをいわれたら、またしたくなってしまいそうだ。

少し思うところもあったのか、詠美の背中も座りが悪そうにモゾモゾ動いてる。

今どんな表情をしてるんだろうか……

悠「詠美、まだこっち向いてくれないんですか?」

詠美「駄目……今は、きっとすごくいやらしい顔をしているから……お願いばかりで、御免なさい……もう少ししたら落ち着くから……もう少しだけ、待って……」

まだ平静を取り戻せていないだけなんだと思う。

でも後ろを向いたままの理由が、最初とは違っていることに、頬が緩んだ。

悠「……」

詠美「私が強引にやり過ぎていたのは、事実だと思うわ。でも……乱れた学園を立て直し、目に見える形ではっきりと、吉音さんを上回る成果を出さなければならなかったの。」

身繕いを終え、ひと息ついてから、徳河さんが語り始めた。

悠「……」

詠美「吉音さんには、一族皆の期待がかけられているのに、姉妹のように育った私は、なにもしてもらえなかった。自分を認めさせるには、自分の力でできるということを証明するしかないのよ」

ご両親を失った吉音さんが、私の家へと引き取られて来た。

徳河の名のせいで、対等に話せる友人が少なかった私はそれを無邪気に喜んだ。

吉音さんは、さすがにしばらくは塞ぎこんでいた様子だったけれど……。

きっと私の無神経な態度に呆れたのね。次第に笑顔を見せてくれるようになったわ。

そうして私達は親友になった……。

けれど、徳河家という巨大な組織においては、私達の関係なんて針の先ほどの重みもなかったのよ。

吉音さんは私より、優先的に家督を継ぐ権利があった。

当然のように徳河は……父や母たちは、吉音さんばかりに高等教育を施すようになった。

私はいつもお座敷でおままごとばかり、よくて吉音さんの添え物程度。

吉音さんには厳しく、私には大切な育て方……なんて見方もできるかもしれない。

それでも私は、そんな優しさなんて求めてはいなかった。

私と吉音さん、なにも変わらないはずなのに、長兄の家系に生まれたというだけでこの扱いの差。

私には何も期待せず、吉音さんばかりに目をかける……私のお父様、お母様なのに!

だから私は塾で学の研鑽をつみ、町の道場で剣の腕を磨いた。

お父様たちからは良い顔はされなかったけれど、これだけは譲ることができなかった。

そうして私は、吉音さんとの距離をとるようになっていった……。

やがて成長し、そろって大江戸学園へと進んだ。当然吉音さんは将軍になるべく正道を進む……かと思っていたのに、偽名を使って浪人を始める。

あれだけの寵愛を受けていながら、私に将軍職を「譲る」というのよ。

それまで得ていたものを全てなしに、次期当主の責務を放棄する。

なによりこの私に情けをかけようとする……それが許せない。

悠「……」

詠美「だから私は、だれにも頼ることができないの自分自身の力を見せなければ、認めてもらえないのよ。……わかった?」

そこまで語って、徳河さんはひとつ息を吐いた。

淡々と語るその口調は、諦めているせいか、それとも奥の感情を殺すためなのか。
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