ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:とある廃屋ー

詠美「……最後にもう一度だけ言わせて」

まっすぐこちらを見据えてくる徳河さんの瞳。

悠「悠、私の側に来て」

悠「……すまん。それはできない。やっぱりおれは執行部のやり方には賛同できない」

詠美「そうよね……わかっているわ。わかっているのよ。わかっているのに、心はそれが嫌だと訴えてくるの……」

じゃあどうすればててのか、に答えなんてない。

すべての思考を閉ざしてしまえば、面倒な事なんてなにひとつなくなる。

でもそれができないからこそ、こうして悩むんだ。

悠「……」

詠美「……ねえ、悠。あなたは吉音さんのことをどう思っているの?」

悠「吉音は……」

詠美「ああ、御免なさい。答えはいらないわ。私はどこまで卑怯なのかしら」

そういうなり、徳河さんはおれに背中を向けてしまった。

悠「……」

詠美「もしあなたが嫌でないのなら……もしあなたが、少しでも私に女を感じてくれているのなら……今夜一度きりでいいから、抱いてほしい」

悠「…………」

背中を向けたままで、徳河さんは続ける。

詠美「それで何もかもふっ切って、私は私のことだけを考えるようにする。都合のいい女だと思ってくれて構わない。これから先もつきまとったりしない。全て忘れてくれていい……だから、お願い……。」

悠「……徳河さん、おれはそんな簡単に割り切れる頭は持ち合わせてない。一度抱いたらきっとおれの方が本気に……いや自分を抑えられなくなると思う。でもな……そんな自傷行為の相手にカッターを使うのと同じなのは嫌だ。徳河さんは心細さを埋めてくれる相手を、探しているだけんじゃないのか?」

詠美「……こんなことを考えたことがなかったから、わからないわ。でもここでたくさん話しを聞いてもらったこと、無くしたくなくて、あなたを他へはいかせたくなくて……お願い。後で何をいわれても構わない。ただあなたに抱いてほしいの。」

冷厳な風格を感じさせる立ち振る舞いだった徳河詠美さん。

でもその中身は、ただの等身大の女の子だった。

前回にも湧きあがってきた衝動が、またおれの身体を熱くさせ始める。

もし抱くことで、想いに応えることで、少しでも氷が解けてくれるなら。

悠「……さっき吉音のことを聞きましたよね?」

詠美「っ……」

悠「詠美は自分を卑怯だといったが……おれはもっと卑怯な事をいう。吉音も徳河詠美もおれの物にする。両方を絶対に救うし仲も取り持つ、絶対にそれは約束する。」

詠美「そんなこと……卑怯で狡(ずるい)わ。」

悠「えぇ。卑怯で狡です。それに、おれは嘘もつくし、逃げも隠れもするが……約束は破らない。」

詠美「……」

悠「そんな卑怯なおれに抱いてくれっていうんだ……覚悟はしてもらうぞ。」





ー大江戸学園:とある小道ー

『覚悟はしてもらうぞ。』

魁人「……ここからはプライベートかな」

魁人は耳にしていたイヤホンをはずして、何かの装置の電源を落とす。

寅「……いつのまに盗聴器を?」

魁人「ハハッ。一応警護対象だからこっそりとね」

寅「馬鹿(悠)も馬鹿だが、アンタも大概だな」

魁人「いやー、ロマンスだねぇ」

寅「何処がだ……ただの蕩(たら)しだろ。」

魁人「人を蕩るのも才能のひとつですよ。たぶん、きっと」

寅「曖昧じゃねーか」
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