ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】
ー大江戸城:執行部室ー
詠美「…………ふぅ……」
平良「ははは、さっきからそわそわと落ち着かない様子だな、詠美」
詠美「それはもちろん安穏とはしていられないでしょう。向こうは遠山さんを取り戻した勢いのまま、城に攻め込んでくるでしょう。もう勝負はどちらに転んでもおかしくはない」
平良「ふ、それだけではあるまい」
詠美「……他に何か?」
平良「まだ強がるのか。詠美らしいと言えばらしいが、悠のことが気になるんだろう?会ってくればいいじゃないか、いつものように」
詠美「悠!?それにいつもって……!」
平良「何だ詠美、あれで私に隠していたつもりなのか?ふふ。さすがの詠美も初めての色恋となれば、甘くもなるものなのかな」
詠美「そんな!……はぁ、幻滅したでしょう、こんな大変な時に私はひとり……」
平良「まぁ、その辺りの色恋については私も不得手で何とも言えないが……務めの方ならこれまで十分に果たしてきたように私の目には見えるぞ。そして、それを支えていたのが悠との逢瀬のおかげとなれば、逆に奴には感謝しても良いのかも知れんな」
詠美「ふぅ……そんなことまでお見通しなのね。立派なのは口先ばかりだわ、私は」
平良「本当にそのとおりだったならこんな学園を二分するような戦いにはならなかっただろうがな。少なくとも、私は最後までつきあわせてもらうよ」
詠美「はぁ……知らぬうちに多くの人に迷惑をかけ、支えられてきたのね、私は」
平良「気にするな。人間は誰だってそういうものさ」
タケチヨ『ヒュウ、ヒュッ』
詠美「あっ……」
平良「悠からの呼び出しだろう?ふふ、以心伝心という奴だな。私に遠慮などせず行ってくればいい」
詠美「……ありがとう。行かせてもらうわ」
平良「気にするな。人の恋路を邪魔したくはないからな。ま、銀シャリには蹴られてしまうかもしれないが……」
詠美「……吉音さん」
平良「行け。明日どんな結果になったとしても、未練のないようにな」
ー大江戸学園:とある廃屋ー
いつもの、しかし初めておれが待つ側に回る空き家。
辺りは静寂に包まれ、大海の真ん中にひとり取り残されたような気分になる。
徳河さんはいつもこんな心細い思いをしながらおれを待ってくれていたんだろうか。
そんなことをぐるぐると考えている間に、小さな小さな足音がひとつ、近付いてきた。
詠美「悠……」
悠「徳河さん……こんな時間に呼び出したりして、すみません」
詠美「いいの。私もあなたに会いたかったから、結局ここまで来てしまったわね。経過も理想も関係ない。この戦いに勝った方が学園の覇権を手にするわ」
徳河さんは、顔を合わせるなり、淡々と語り始めた。
悠「別に覇権とかそういうもんじゃ……」
詠美「言葉を選んだり、飾ったりする必要はないわ。事実だもの。ここに至っては私の取った手段は、全ての生徒にとっての最善ではなかったと認めるしかない。ここまで大きな反発を招いてしまうとは……私に力が無い、その自覚が足りていなかったのね」
悠「……それでも、今からでも、正面対決を避けることならできるんじゃないですか?」
詠美「できるということと、するということは別よ。今私達の側にいる生徒は、これまでずっと私を支持してくれた人たちなの。それを裏切るわけにはいかない。仮に私が考えを変えたところで、流れを止めることはできないわ。」
今日の徳河さんは、これまでよりは冷静に見える。
言葉の内容も、本音に近いところを語ってくれているように思える。
でも何故だろう、今まさに死地に赴くような、そんな危うさも同時に感じる。
詠美「…………ふぅ……」
平良「ははは、さっきからそわそわと落ち着かない様子だな、詠美」
詠美「それはもちろん安穏とはしていられないでしょう。向こうは遠山さんを取り戻した勢いのまま、城に攻め込んでくるでしょう。もう勝負はどちらに転んでもおかしくはない」
平良「ふ、それだけではあるまい」
詠美「……他に何か?」
平良「まだ強がるのか。詠美らしいと言えばらしいが、悠のことが気になるんだろう?会ってくればいいじゃないか、いつものように」
詠美「悠!?それにいつもって……!」
平良「何だ詠美、あれで私に隠していたつもりなのか?ふふ。さすがの詠美も初めての色恋となれば、甘くもなるものなのかな」
詠美「そんな!……はぁ、幻滅したでしょう、こんな大変な時に私はひとり……」
平良「まぁ、その辺りの色恋については私も不得手で何とも言えないが……務めの方ならこれまで十分に果たしてきたように私の目には見えるぞ。そして、それを支えていたのが悠との逢瀬のおかげとなれば、逆に奴には感謝しても良いのかも知れんな」
詠美「ふぅ……そんなことまでお見通しなのね。立派なのは口先ばかりだわ、私は」
平良「本当にそのとおりだったならこんな学園を二分するような戦いにはならなかっただろうがな。少なくとも、私は最後までつきあわせてもらうよ」
詠美「はぁ……知らぬうちに多くの人に迷惑をかけ、支えられてきたのね、私は」
平良「気にするな。人間は誰だってそういうものさ」
タケチヨ『ヒュウ、ヒュッ』
詠美「あっ……」
平良「悠からの呼び出しだろう?ふふ、以心伝心という奴だな。私に遠慮などせず行ってくればいい」
詠美「……ありがとう。行かせてもらうわ」
平良「気にするな。人の恋路を邪魔したくはないからな。ま、銀シャリには蹴られてしまうかもしれないが……」
詠美「……吉音さん」
平良「行け。明日どんな結果になったとしても、未練のないようにな」
ー大江戸学園:とある廃屋ー
いつもの、しかし初めておれが待つ側に回る空き家。
辺りは静寂に包まれ、大海の真ん中にひとり取り残されたような気分になる。
徳河さんはいつもこんな心細い思いをしながらおれを待ってくれていたんだろうか。
そんなことをぐるぐると考えている間に、小さな小さな足音がひとつ、近付いてきた。
詠美「悠……」
悠「徳河さん……こんな時間に呼び出したりして、すみません」
詠美「いいの。私もあなたに会いたかったから、結局ここまで来てしまったわね。経過も理想も関係ない。この戦いに勝った方が学園の覇権を手にするわ」
徳河さんは、顔を合わせるなり、淡々と語り始めた。
悠「別に覇権とかそういうもんじゃ……」
詠美「言葉を選んだり、飾ったりする必要はないわ。事実だもの。ここに至っては私の取った手段は、全ての生徒にとっての最善ではなかったと認めるしかない。ここまで大きな反発を招いてしまうとは……私に力が無い、その自覚が足りていなかったのね」
悠「……それでも、今からでも、正面対決を避けることならできるんじゃないですか?」
詠美「できるということと、するということは別よ。今私達の側にいる生徒は、これまでずっと私を支持してくれた人たちなの。それを裏切るわけにはいかない。仮に私が考えを変えたところで、流れを止めることはできないわ。」
今日の徳河さんは、これまでよりは冷静に見える。
言葉の内容も、本音に近いところを語ってくれているように思える。
でも何故だろう、今まさに死地に赴くような、そんな危うさも同時に感じる。