ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】
ー大江戸学園:かなうの養生所ー
悠「由比さん!」
由比さんの肩に手を添え、上半身をゆっくり起こす。
それだけの動きにも由比さんは息を乱し、苦しげに呻いた。
由比「……」
悠「はい、眼鏡です」
おれは代わりに眼鏡を取り上げ、由比さんに渡す。
雪那「……ありがとうございます」
由比さんはぎこちなくおじぎして差し出された眼鏡をかける。
悠「あんまり無理しない方が良い」
雪那「そう、ですね……でも、どうして小鳥遊さんがここに?」
悠「あー……かなうさんから由比さんが休んでるって聞いてね、お見舞いでもと……」
雪那「お見舞い、ですか……」
由比さんの表情が自虐ぽく歪んだ。
悠「……」
雪那「人が良いですね、小鳥遊さん……。あれほどの騒ぎを起こした私の事なんて、放っておいたらいいものを……」
悲観的で突き放した台詞。さっきかなうさんから聞いた言葉を思い出す。
心が弱っている……と。
悠「放ってはおけないだろ」
雪那「……すみません」
由比さんは軍を率いて乱を起こしていた時とは別人のように素直だった。
もつろん身体が弱っているせいもあるだろうけど、敗れたことで憑きものが落ちたのかもしれない。
おれが学園に来たばかりの頃、乙級の生徒相手の授業をしていた由比さんは、穏かで聡明で熱心な教育者だった。
もし由比さんが革命の間も終始この調子だったなら、先日の乱もまた違う結末であったかもしれない。
悠「あー、なんかして欲しいこととかない?」
雪那「してほしいこと……ですか」
おれの問いかけに由比さんは何かを考え込むように顔を伏せた。
悠「……」
雪那「……この不快感は……べたべたして……ここは小鳥遊さんにお願いして……、ですが、そんな……」
由比さんは小声で呟いている。なにやら葛藤があるようだが。
悠「?」
結論が出たのか、由比さんがすっと顔をあげた。
雪那「小鳥遊さん……」
悠「はい」
雪那「お願いしても……いいですか?」
悠「何でしょう?」
一瞬だけ迷いの視線が揺れたが由比さんはそのまま続ける。
雪那「あの……汗で濡れて気持が悪いんです。身体を拭いていただけませんか?」
悠「……えっ?」
雪那「こんなことをお願いするのは大変申し訳ないのですが……他人に身体を拭かれるのは恥ずかしいです……でもあまりに不快で……」
こうして会話している間も由比さんは肌に張り付く布地をどうにかしようともぞもぞしている。
悠「それは……」
雪那「……分かりました」
おれが躊躇するのを見て小さくため息をつく由比さん。
雪那「では、自分で拭きま……ぐっ」
おれの手から手ぬぐいを取ろうとした由比さんだが、やはり叶わずぐらりと体勢を崩してしまう。
悠「おいっ!だから無理はダメだって!」
おれは慌てて手を伸ばして背中を支える。
悠「由比さん!」
由比さんの肩に手を添え、上半身をゆっくり起こす。
それだけの動きにも由比さんは息を乱し、苦しげに呻いた。
由比「……」
悠「はい、眼鏡です」
おれは代わりに眼鏡を取り上げ、由比さんに渡す。
雪那「……ありがとうございます」
由比さんはぎこちなくおじぎして差し出された眼鏡をかける。
悠「あんまり無理しない方が良い」
雪那「そう、ですね……でも、どうして小鳥遊さんがここに?」
悠「あー……かなうさんから由比さんが休んでるって聞いてね、お見舞いでもと……」
雪那「お見舞い、ですか……」
由比さんの表情が自虐ぽく歪んだ。
悠「……」
雪那「人が良いですね、小鳥遊さん……。あれほどの騒ぎを起こした私の事なんて、放っておいたらいいものを……」
悲観的で突き放した台詞。さっきかなうさんから聞いた言葉を思い出す。
心が弱っている……と。
悠「放ってはおけないだろ」
雪那「……すみません」
由比さんは軍を率いて乱を起こしていた時とは別人のように素直だった。
もつろん身体が弱っているせいもあるだろうけど、敗れたことで憑きものが落ちたのかもしれない。
おれが学園に来たばかりの頃、乙級の生徒相手の授業をしていた由比さんは、穏かで聡明で熱心な教育者だった。
もし由比さんが革命の間も終始この調子だったなら、先日の乱もまた違う結末であったかもしれない。
悠「あー、なんかして欲しいこととかない?」
雪那「してほしいこと……ですか」
おれの問いかけに由比さんは何かを考え込むように顔を伏せた。
悠「……」
雪那「……この不快感は……べたべたして……ここは小鳥遊さんにお願いして……、ですが、そんな……」
由比さんは小声で呟いている。なにやら葛藤があるようだが。
悠「?」
結論が出たのか、由比さんがすっと顔をあげた。
雪那「小鳥遊さん……」
悠「はい」
雪那「お願いしても……いいですか?」
悠「何でしょう?」
一瞬だけ迷いの視線が揺れたが由比さんはそのまま続ける。
雪那「あの……汗で濡れて気持が悪いんです。身体を拭いていただけませんか?」
悠「……えっ?」
雪那「こんなことをお願いするのは大変申し訳ないのですが……他人に身体を拭かれるのは恥ずかしいです……でもあまりに不快で……」
こうして会話している間も由比さんは肌に張り付く布地をどうにかしようともぞもぞしている。
悠「それは……」
雪那「……分かりました」
おれが躊躇するのを見て小さくため息をつく由比さん。
雪那「では、自分で拭きま……ぐっ」
おれの手から手ぬぐいを取ろうとした由比さんだが、やはり叶わずぐらりと体勢を崩してしまう。
悠「おいっ!だから無理はダメだって!」
おれは慌てて手を伸ばして背中を支える。