ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:船着き場ー

真夜中、本来なら定期船以外に船が止まるはずのない船着き場に船が止まる。

「ささっ、お急ぎください。」

魁人「よいしょっ。助かったりました。ありがとうございます」

伊万里「うぷっ……」

片方の男は船員に礼をつげ、もうひとりの男は口元を手で押さえて小さく会釈する。

「いえ、それでは失礼しやす。」

二人を降ろすと船はすぐに移動を始めて闇の中へと姿を沈めた。

伊万里「うー……」

魁人「まったく、あの程度の揺れで酔うとは情けない」

伊万里「うるせ……ぇうっ。」

魁人「吐くなら向こうで海に向かって吐いてくださ……誰です?」

「いやー、バレてしまいましたか。流石ですねぇ」

魁人「……」

海とは逆の陸、建物の影からのそりと姿を現したのは……

「おっと、いきなり乱暴は勘弁してくださいよ。あたしは船の手配からなにからしたものなんですから」

魁人「あぁ、ということは貴方が御伽ヶ島さんですか」

左近「左近でいいですよ。」

魁人「では、左近さん。船の手配ありがとうございました。」

左近「いえいえ、鬼さんと龍さんからちゃんといただくものはいただけてますのでちゃーんと仕事をさせていただきますよ。」

魁人「実に素直なひとだ」

左近「よく言われます。とりあえず、宿に向かいましょうか。ついでに分かる限りのことは説明しますよ。」

魁人「何から何まで助かります。おい、行くぞ」

伊万里「お、おぅ……」

左近「船酔いですか?」

魁人「えぇ……情けない」

左近「あはは、そういえば伊万里さんが単身で来たときも酔ってましたねぇ。」

伊万里「船旅は嫌いだ…。」

魁人「どんな場所でも本領を発揮できなくてどうするんだか…」

伊万里「うる……せぇ……」

魁人「やれやれ、左近殿早速ですが何か情報は?」

左近「そうですねぇ。クライマックスな感じでしょうか」

魁人「クライマックス?」

左近「えぇ、ようやく悪人っていうか真の敵が分かって決着をつけにいこうとしている状況です。」

魁人「ほう」

左近「ですが、龍の人から頼まれていた。天ってひとの情報はさっぱりですね。」

魁人「つまり、真の敵は天ではない……と?」

左近「それはハッキリ違うといえますねぇ。ただ……最近何人かこの学園に紛れこんでいるのは確かですよ。」

伊万里「死の面に関しての情報は?」

左近「そちらもさっぱりですねぇ。目立つ容姿なのにまったく情報が入らないってことは……潜めてるってことでしょうねぇ」

伊万里「……」

魁人「敵の狙いが分からず潜まれててしかも学園の厄介事が大詰め状況が読めないですね。」

伊万里「お前馬鹿か」

魁人「あ?」

伊万里「何がどうなっていようと敵は小鳥遊悠を狙ってるんだ。あいつを張ってたらいい」

魁人「それでまた返り討ちですか?」

伊万里「ぶっ飛ばすぞ」

魁人「海に沈めますよ?」

左近「あっはっは。仲がよろしいですねぇ」

「「よろしくねぇ(ないです)!」」
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