ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸城:城前広場ー

詠美「…………」

鼎「現在、将軍選挙に立候補中の徳河詠美を無投票での当選とし、第20代生徒大将軍に任命します」

悠「吉音……?」

吉音「…………」

鼎「今後は執行部の持つ権限はすべて将軍の委譲とし、その執行に対して異を唱えることは許しません」

男子生徒A「なんだって?」

鼎「背く者はすべて謀反人とみなします」

男子生徒B「待て、まるで恐怖政治じゃないか?」

男子生徒A「せめて話しあいの場を設けろ!」

声をあげる生徒たちの数は次第に増えていた。そしてついに一部の興奮した生徒が演壇にあがろうとし始めた。

しかし……。

鼎「柳宮さん!」

十兵衛「下がれ。この演壇はお前たちのあがれる場所ではない!」

男子生徒A「げ、十兵衛!」

さらに現れたのはなんと師匠、柳宮十兵衛だった。

男子生徒B「うわぁぁ!?」

師匠の剣の一振りで演壇に上がろうとしていた数名の生徒は木っ端のように吹き飛んだ。

悠「……師匠、なんでそこにいるんだよ?」

この間まで雪那に着いて詠美と戦ったはずの十兵衛がなぜ?

吉音「詠美ちゃん!」

悠「よ、吉音?」

さっきまで黙っていた吉音が突然声をあげ、そして詠美に向かって走りだした。

おれもそれに続く。

十兵衛「止まれ、将軍の御前ぞ」

しかしその前に師匠が立ちふさがる。

其処におれが割り込んだ。

悠「だったらこっちは生徒代表だぜ、師匠?」

十兵衛「ふっ、口だけは相変わらず一端だな」

当然、吉音がこれ以上前に出ればおれなど容易く斬り伏せらるだろう。それでも引くわけにはいかない。

吉音「こんなの間違ってるよ!詠美ちゃんはそれでいいの?正しいと思っているの?」

詠美「…………」

おれと師匠の身体越しに吉音は壇上の詠美に訴えかけた。詠美は黙ってその姿を見下ろしていた。

鼎「徳河さん、城に戻りましょう」

詠美はこくりと頷き、飛鳥先生の後ろを歩きだした。

吉音「詠美ちゃんっ!」

詠美「間違っているというのなら……」

吉音「……!」

詠美は演台を降りるギリギリで吉音に振り返った。

詠美「大江戸城へ来なさい」

鼎「徳河さん!」

吉音「行くよ。必ず行く!」

詠美「…………」

詠美はすぐに背中を向けてしまったため、その表情をうかがい知ることは出来なかった。

その後の詠美は一度も振り返らずに壇上を降りた。

吉音「…………」

吉音はその背中を見つめ続けていた。

その様子を見て師匠も刀を収め、ふたりの後を追う。

悠「師匠……アナタは一体何をしようとしているんです?」

おれは去りゆく師匠の背中に声をかけた。

十兵衛「……」

師匠は振り返らなかった。そして飛ぶようにその場を去った。

悠「……」

真留「この陣太鼓の音は……」

朱金「火盗改めの奴らか」

徳河さんや師匠と入れ替わるように火盗改めの部隊が広場の中へと入ってきた。

平良「これよりこの広場は閉鎖する!皆、早々に解散せよ!」

まだ騒然としている生徒たちを武装した火盗の部隊が押しやってくる。

もちろん抵抗する者もいたが、さすが長谷河さん率いる火盗の統率力は高く、すぐにばらばらにされてしまう。

朱金「あいつ、畜生。この期に及んでも執行部に尻尾を振ってやがるのか!文句をいってきてやる!」

真留「いけません遠山様!また拘束されてしまうのがオチです。何のために助けてもらったのか、分からなくなります。」

朱金「ちっ」

火盗の部隊に突っこんで行こうとする朱金を、皆で引きずるように広場から退却した。

向かった先はかなうさんの養生所だ。
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