ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸城:城前広場ー

酉居「おのれ、下賤どもが!銭方、奴らをなんとかしろ!」

真留「お断りします」

酉居「何だとっ!?」

真留「我々北町奉行所は遠山様の指揮下に戻ります」

酉居「馬鹿をいうな。北町奉行所などもうない!」

真留「名前なんてどうだっていいんです。ただ我々はこれまで通り一般生徒を守ります」

酉居「せっかく取り立ててやった恩を忘れおって。貴様らに今後出世の目はないぞ!」

真留「構いません。出世よりも大切なものがあります。」

真留は答え、そして他の同心や岡っ引き達も口々に同意の声をあげる。

酉居「このままではっ!クチバミ!せめて罪人どもは逃がすな!」

クチバミ『マァムーーッ!マァーム!』

酉居の命を受けたクチバミはその巨体からは想像もできないスピードで刑場へと這い進む。

悠「しまった、あの剣魂を暴れさせるとやばいぞ」

寅「チッ、まだ動いたか。逃がすか!」

吉音「金ちゃん達、刀持ってない」

真留「これより我々は遠山様の援護に向かう。続けっ!剣魂には剣魂だ!」

真留の号令一下、元・北町奉行のメンバーは一斉に刀を抜き、クチバミを追う。

同心たちが召喚した剣魂たちがクチバミに攻撃を加える。

その様子はさながら巨大な母艦に攻撃をかける攻撃機の編隊のようだ。

その一撃は致命傷とはならないが、確実にクチバミの装甲を少しずつ砕いていく。

クチバミ『マムーーッ!マァー!』

クチバミは群がる剣魂を打ちおとそうと、尾の鎖を振りまわす。

しかし真留のピストルズ……もとい、ガラッ八をはじめ剣魂たちは、すばしこく攻撃をかわす。

真留「だめっ、止めきれない!佐東さん!?」

真留達の攻撃にウロコを散らばらせながらも身を捩じらせ、ついに刑場へと身を乗り上げるクチバミ。

はじめ「だめ!ボクらじゃ止められない!」

刑場付近ではまだ守備隊とはじめたちの衝突が続いている。おれも吉音も今からじゃ追いつかない。

クチバミ『マムーーッ!!』

クチバミは鎌首を持ち上げ、まだ繋がれたままの朱金や越後屋を丸呑みにせんと、巨大なあぎとを開いた。

真留「遠山様!」

はじめ「旦那っ!」

主人に迫る危機に声をあげる真留とはじめ。

クチバミ『マ、マムーー!?』

クチバミの三角形の巨大な頭部がぐらりとのけぞった。

寅「逃がさないっただろ。」

朱金「痛ってぇー!」

揺らぐクチバミの身体の向こうから現れたのはさっき駆けだした寅と、手をぶらつかせて、顔をしかめている朱金の姿だった。

越後屋「そらそうやわ。こない固そうなもん、素手でどついたらそうなりますわな」

と、その後ろであきれ顔をしている越後屋。

真留「遠山様、御無事で!」

朱金「おう、真留か。何だよ、お前、あっちで出世してくるんじゃなかったのかよ?」

真留「もういいんです。私は遠山様の元で出世しますから」

越後屋「こないええ加減なひとの下でそら無理な話しやわ」

寅「ははっ、確かにな」

朱金「おい、そりゃどういう意味だ」

越後屋「言葉通りの意味ですわ」

真留「いいんです。大丈夫です。遠山様は私がまともにします!」

朱金「まともにってお前、それじゃ今はまともじゃ……」

真留「と、遠山様!それより前!」

朱金「おっ?」

不意の一撃を喰らって、ぐらついていたクチバミが再び意識を取り戻す。
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