ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:城前広場ー

悠「しまった……コレがいたか」

クチバミ『マムゥーッ!』

姿を現したのは酉居の剣魂クチバミだった。

マムシの姿を持った学園でも屈指の戦闘力を持った凶悪な剣魂だ。

無数の鎖となった尾でジャリジャリと地面を擦りながら、巨大な三角形の鎌首を持ち上げてクチバミはおれに迫る。

酉居「クチバミ、鉄鎖陣を張れ」

クチバミ『マムッ』

クチバミは酉居の言葉にうなずくと鎖を周囲に張り巡らせた。

悠「わっと……」

黒光りする鎖は一本一本が個別の蛇であるかのようにおれの足元でのたうつ。

酉居「さぁ、これで逃げられんぞ?おれの剣に打倒されるか、クチバミの鎖に引き裂かれるのか?」

悠「いやぁ、どっちも遠慮したいです」

酉居「行くぞ!はぁっ!はっ!」

悠「チィッ!」

一気呵成に打ちこんでくる酉居。強烈な斬撃が頭上から幾度も降り注ぐ。

おれは足元にも気を配らねばならず、なんとかかんとか受けるので精いっぱいだ。

酉居「クチバミ!今だ!」

クチバミ『マムーッ!』

悠「しまったっ!?」

体勢を崩したところにクチバミの鎖が一斉に襲い掛かってきた。

数が多過ぎる。避けきるのは不可能だ。二、三本はかわしたものの、瞬く間に無数の鎖に手足を拘束されてしまう。

クチバミ『マァーーッ!』

酉居「はっはっはっ、勝負あったな!」

悠「んー……」

冷たい鎖が固くおれの自由を奪っている。

酉居「どうだ、小鳥遊?このままじわじわ絞めあげられて意識を失うか?それともひと思いに剣で脳天を打ち砕いてやろうか?」

悠「ふふっ」

おれは堪え切れず吹きだしてしまった。

酉居「何がおかしい?今の状況が分かっているのか?」

悠「酉居、戦いに熱中し過ぎたな」

酉居「何だと?くだらない負け惜しみを……」

悠「…………」

酉居「おい?貴様、どこを見ている?」

酉居はおれの視線が自分をすり抜けた背後へと向けられているのに気づいたようだ。

振り返った鳥居は驚きの声をあげた。

刑場の守備部隊は既に半壊滅状態となっている。

彼らと戦いを繰り広げているのは、別動隊の始めと越後屋の用心棒たちだった。

悠「……」

酉居「ひ、ひきょう者め!」

悠「それをお前がいうかね?いくら精鋭と言っても統率のとれてない部隊なら烏合の衆だ。つまり指揮を執るお前さえ押さえておけば個別に潰せるんだよ。幸か不幸か、おれは随分お前に好かれてるらしいからな。囮としては適役だろう?」

酉居「おのれ……クチバミ、絞め上げろ!」

しまった、挑発し過ぎたか!?

悠「あ、こいつはちょっとヤバ……」

クチバミ『マァーーッ!』

「ふんっ!」

クチバミ『マムァーー?!』

マゴベエ『ピュイイーーッ!』

間一髪。何者かがクチバミを蹴り飛ばして、マゴベエが放った苦無がおれを捕えていた鎖を撃ち落とす。

クチバミ『マァムーーッ!』

手足の戒めが解けておれは地面に投げ出される。

悠「サンキュー、マゴベエ!それに……寅!」

マゴベエ『ピュイッ』

寅「雑魚相手に遊んでんじゃねーぞ。ボケ」

吉音「悠ーーっ!」

寅に手を借りて立ち上がると吉音の声に顔向けた銀シャリ号が柵を蹴り壊している。

男子生徒A「よーしみんな、金さんを助けるぞ!」

柵が倒され、刑場への突破口ができると一般生徒の一軍が広場へとなだれ込む。

彼らはみんな、配給所の騒動で朱金に助けられた生徒たちだった。
18/100ページ
スキ