ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:とある境内ー

深夜。寺の境内に小さな影がたたずむ。それは水都光姫の姿だった。

光姫「遅いの」

光姫はそう呟いてふと木立を見上げる。

銀次「日時はきっちり伝えてるよ」

少し離れた木の枝に立つ銀次が答える。

光姫「そうか……」

銀次「南の姉さんの身に何かあったか」

光姫「頼んだのは失敗じゃったか……」

銀次「信用してないのかい、お嬢?」

光姫「違う、逆じゃ。あいつは真面目すぎる。やれるところまででいいと言ったら限界までやってしまう」

銀次「踏みこみ過ぎちまったか……」

光姫「……ふむぅ」

ため息をつき、考えをめぐらす光姫。

銀次「ん、誰か来たようだぜ」

光姫「想……ではないな」

銀次「ああ」

身構えるふたりの前に現れたのは……

往水「ばんわ」

左近「どーもぉ」

光姫「お主ら、想と朱金のところの?」

往水「ええ、同心の仲村です。」

左近「今はフリーの左近でさぁ。」

往水「お奉行から預かりものがありまして」

左近「私は往水殿の護衛です」

光姫「逢岡はどうした?」

往水「や、あたしにも詳しいことは分からないんですよ。ただ連絡がない時にはコイツを持ってここへ行くようにって言われましてね」

左近「こっちもよく似ていて連絡がなかったら往水殿をここへお連れするようにと言われてたんですよねぇ」

光姫「そうか……」

想の身に何があったのはコレで確実になった。光姫はわずかに表情を曇らせた。

銀次「それで。預かりものってのは?」

往水「こいつですけど」

往水は懐から封筒を取り出した。

左近「もし良かったら事情を話してくれませんかね?ついでに雇ってくれるなら幸いなんですけど、なんせ今は暇なもんで」

往水「北町のおチビさんの補佐と酉居殿の付き人をしてたんじゃ?」

左近「銭方さんとはウマが合わなくてねぇ。外されたんですよ。酉居の旦那は最近ぎらぎらしてて怖いし」

光姫「なんじゃ、逢岡からは聞いて居らんのか?」

往水「や、光姫さんからの依頼で大御所とかいあのについて調べてるってことまでは聞いてたんですが……」

左近「あぁ、同じですねぇ。私もそのぐらいですよ。それ以上の詳しい話しは全然」

光姫「なるほど。逢岡らしく慎重じゃな」

往水「つか、あたしが信用されてないんじゃないですかね?」

左近「あっははは。」

往水「うわ……アナタに笑われるとか心外ですよ…。」

光姫「そういうわけではない。知れば危険に巻き込まれる。逢岡はお前さんらの身を案じて、最小限のことだけ伝えておったのじゃ」

往水「へ……そんなにヤバいことなんですか?」

左近「ほぅ」

光姫「学園がひっくり返るくらいにはな。それでも事情を聴きたいか?これ以上関わりたくないのなら、このまま帰っていいぞ。お前さんらの自由じゃ」

往水「ふむぅ……」

左近「んー……」

頭を掻く往水と左近。
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