ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

数日前、徳河詠美から門前払いを受けた吉音だったが、その後も毎日大江戸城へと足を運んでいた。

その後の対応に詠美が出ることも無くなっていた。それでも吉音は彼女との対話を求め続けていた。

そんな中、学園を騒然とさせる発表があった。

それは昨日校内放送を通じて突然告げられた反抗分子の公開処罰だった。

配給所襲撃事件などで拘束されている生徒たちの処罰を城前広場において公開で行うというのだ。

力によって恐怖を植え付ける前時代的なやり方は多くの生徒たちに暗黒時代の幕開けを感じさせた。

しかも処罰を受ける反乱分子の中には、朱金や越後屋など仲間が含まれていて、他人事ではなかった。

そしてさらに問題はあった。

執行部の官報と化した瓦版が、数日前から吉音への露骨な誹謗中傷を開始したのだ。

打ち壊しに加わった生徒たちが、吉音に談判に来た際の写真は、衝撃を持って一般生徒に受け取られてしまった。

写真は真実だが、記事の内容はまるででたらめだった。

現在の学園の混乱を吉音、そしておれたち小鳥遊堂に集まる仲間に押し付けるような悪意に満ちたねつ造。

だが不満のはけ口を求める生徒たちには格好の材料となってしまう。

小鳥遊堂はねつ造を真に受けた生徒たちの誹謗中傷をまともに浴びることになっていた。

しかし……。

目立ちこそするものの、表向きは一介の生徒である吉音に、なぜここまでの攻撃が行われるのだろうか?

そこには『徳田新=徳河吉音』の事実を知る何ものかの存在があるはずだ。

隠れた将軍継承順位第一位徳河吉音の蜂起を恐れる何者かが……。



ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

はじめ「力を貸してください」

佐東はおれと吉音に向かって深々と頭を下げた。

吉音「わわ、頭をあげてよ、いっちゃん」

悠「ああ。わざわざ頼まれなくたってもともと動くつもりだったんだから」

はじめ「ありがとう……ございます」

吉音「だから、お礼なんてしてもらうことじゃないんだってば」

悠「そうだよ。もしどうしてもっていうんだったら。無事に越後屋を助けだしたら何か食っていってくれ」

はじめ「は、はい……」

客足の途絶えた開店休業中の小鳥遊堂に佐東が現れた。

用件はもちろんこのままでは公開処罰を受けることになる越後屋山吹のことだった。

腕の立つ佐東でもたった一人ではさすがに越後屋の救出は難しいと考えたのだろう。

おれたちのところへ助けを求めに来たのだった。

最初は敵として現れた越後屋だが、今やすっかりと仲間になった感のある越後屋だ。

まるで少年漫画の王道のようだが、放ってはおけない。

悠「……」

はじめ「役人はすべて頼りにはできません」

吉音「想ちゃんも金ちゃんもいないしね……」

悠「あと、信用できて力になってくれそうなのは鬼島さんかかなうさんか……。

もしくは久秀、寅、風雷コンビも居るが信用はなかなか難しい。とりあえずあとで養生所に行ってみるか。

吉音「よおし、金ちゃんも越後屋も取り返すぞ!」

はじめ「お願いします」

「公開処罰の場に乗りこむつもりですか?」

吉音「ひゃっ!?」

悠「真留……」

真留「……」

そこにはいつの間にやら銭方真留の姿があった。
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